社会人としての思春期

「R25」というフリーマガジンがあります。東京に住んでいる人には、お馴染みだと思います。
その連載で「つきぬけた瞬間」というインタビューがあり、それをまとめた「俺たちのR25時代」という本が、日経ビジネス人文庫から出ています。
ずっと気になっていた本だったのですが、ちょうど1週間前、東京に戻るための飛行機に乗る直前、福岡空港の書店で買いました。
飛行機の中で半分ほど読み、残る半分は昨日の早朝、仙台駅の中にあるマクドナルドで時間潰ししながら読みました。

それぞれの、いわゆる有名人が、インタビューに答えています。ターゲット読者層に合わせて、すべて男性です。もちろん、R25時代(25歳~34歳頃)を終えた人たちです。その中には、つんく♂もいたりします。
それぞれ、興味深い、R25時代の話をしています。
しかし、私が最も興味深く感じたのは、R25編集長の藤井大輔氏が書いた「はじめに」の冒頭でした。
つまり、この本のドアタマです。

25歳から34歳は、男性にとって「社会人としての思春期」なのではないか。自分と向き合い、社会と向き合い、仕事と向き合うことで、自らの殻を打ち破り「第2の成人」を迎えるための準備期間といえよう。

私は今、27歳で、R25時代の真っ只中です。
27歳になってから、半年が経とうとしていますが、私の27歳は色々なことのある27歳です。
今年の5月(誕生日が6月なので、まだ26歳)に、札幌でアーキテクト宣言をしました。
6月には、早々にアーキテクト宣言を撤回し、それどころか会社を辞める決意をしました。行政書士試験に向けた準備を始めました。
9月には、実際に会社を辞め、試験勉強に没頭するかと思いきや、旅行三昧の日々を始めました。わずか5日間ではありましたが、SEとは無関係の仕事も経験しました。
27歳は、まだ半年残っていますし、R25時代は7年半も残っています。
まだ、この先、何が待っているか分かりませんが、今年のこうした経験は、まさに「社会人としての思春期」なのだと、先に挙げた藤井氏の文章によって、実感したのです。

私はこの文章を仙台で書いています。よりによって、行政書士試験の2日前であるにも関わらず、仙台にいるのです。試験について、触れておきましょう。
ブログを読めば、私が何をしているかは大抵分かりますから、今さら言うことでもないかもしれませんが、今年の試験には落ちることでしょう。まぁ、間違いありません。
それなりに半年は勉強してきましたから、おそらく50%前後の正答率には達するのではないかと思っています。合格点の60%には、あと10%分ほど及びません。たかが10%ですが、されど10%です。特に、この最後の10%は、0%を10%にする時とは、比べ物にならない大変さがあります。
ゼロから勉強を始めて、行政書士試験に合格するまで、平均で1年半かかるという話を、どこかで見聞きしました。おそらく、私にとっての残る1年が、この最後の10%を埋めるために必要な期間なのだろうと思います。
ざっくり言えば、1冊物といわれる全科目について書かれたテキストにあるようなことで40~50%くらいは正解できるだろうし、それは半年もあれば到達できる。あとは、細かい条文だったり、判例だったり、その判例のロジックだったり…。つまりパレート図のロングテールの部分が無限にあって、そこからある程度得点出来ないと、合格には至らない。そこに1年かかるのだろうと、思うのです。
要は、余程のまぐれでもなければ、今年は落ちるということです。(大体、まぐれで合格した人に、クライアントは仕事を頼みたくないでしょう…。)

では、今年は落ちるとして、来年も受けるのか?という問題があります。
正直言うと、この答えは、まだ出ていません。今年の本試験を受けた後で、様々な視点で考えた上で、答えを出そうと思います。
会社を辞めてから3ヶ月くらい経ちましたが、既に述べたように、旅行したり、別の仕事したり…、必ずしも勉強に没頭しない時間を過ごしました。
旅行に関していえば、9月の北海道を皮切りに、横浜、湯河原、八王子、名古屋、福岡、大阪、仙台と、出張続きのビジネスマン並みに、日本中を飛び回りました。
大抵は1~2泊で、その土地の雰囲気の雰囲気が少し知れた程度に過ぎませんが、その土地を歩いて、色々な空気を感じることが出来たのは、良い経験だと思うのです。
何より旅先で、また別の仕事をした経験から、色々なことを考えます。
そもそも、会社を辞めてからの経験は、大抵は初めての経験です。
仮に会社を辞めずに、ずっと同じ仕事をしていたら、気づかなかっただろう視点にぶち当たりました。この3ヶ月間で、何が良かったかといえば、この、新しい視点に気づいたことです。これは、絶対にそうなのです。
だから、そういう新しい視点も踏まえて、色々考えたほうが良いと思うのです。

前にもブログに書きましたが、社会人になってからは、ずっと正社員でしたから、毎月、定期的な収入があります。大抵、上がりも下がりもしません。だから、お金のことは支出しか考える必要がなく、使い過ぎたら痛い目に遭うし、良くないという経験をするに止まります。重要な経験には違いありませんが、それでは片面しか見ていません。特に、私は今年のはじめまで会社の寮にいましたから、お小遣い程度の金銭感覚なのです。
しかし、今は、定期的な収入すらないのです。だから、「お金を稼ぐ」という感覚が、以前よりも研ぎ澄まされました。稼ぐと使うの両面が見えるようになったのではないかと思うのです。
湯河原で、あぁ温泉は良いなぁ、楽しいなぁと思いつつ、考えたことですが、こうした楽しい時間を過ごすには、お金が必要です。
「お金を稼ぐ」といえば、「仕事」です。あぁ、こうした時間をまた作ろうとすれば、仕事しなきゃな…。当たり前のことですが、このロジックを明確に意識したのは、初めてだったように思います。
「仕事」というものを眺める視点として、「仕事のための仕事(仕事そのものが目的の仕事)」と、「お金のための仕事(お金を稼ぐための仕事)」があると思います。究極的には後者にならざるを得ないでしょうが、私が今まで意識していたのは前者です。後者は必要悪かつ潜在的に捉えていて、ほとんど意識していなかったように思います。
もちろん、仕事が楽しくてお金も良いというのは、それにこしたことはありません。それに、本当の答えは、こうした二分論では割り切れないところにあるような気もします…。

仕事とお金の視点をX軸にとるとすれば、もう1つ、会社と自分をY軸として考えてみましょう。
この会社と自分という視点は、今までもそれなりに持っていましたが、会社を辞めたことで、なおさら明確に、リアリティを持って見えてきたように思います。
今までの正社員としての自分は、仕事・会社の領域にいました。仕事に意義を見出して、正社員としての働き方をするなら、当然、そうなるでしょう。お金・会社領域もありますが、ベンチャー企業や、極度の個人成果主義の会社でなければ、お金は求めづらいように思います。特に私が勤めていたような安定企業では、大して上がりも下がりもしません。上がりも下がりもしないことを前提にお金・会社領域にいるとすれば、モチベーションが上がらないでしょう。
振り返って考えれば、5月のアーキテクト宣言は、仕事・会社領域の思考を突き詰めた結果だったのです。
6月頃に「自由な仕事をやりたい」という記事を書いていました。それは、仕事・会社領域に息苦しさを感じた結果なのかもしれません。(行政書士というのは、その反動と見えなくもありません。)
これからのことに目を向けると、12月には何か仕事をしていないと、いい加減、生活できなくなってしまいます。その時点では、色々な働き方がある中で、その会社と心中する気持ちにでもならない限り、正社員という選択肢を選ぶことはないでしょう。正社員は、それだけの覚悟が必要だと思います。

送別会の席で、「3C(Chance, Challenge, Change)」という言葉を使った挨拶をしました。B.B.L.という美勇伝のラジオ番組で、石川梨華が言っていた言葉です。
この3ヶ月の間に、自分の中で色々な気持ちの曲折があり、自分が想像していた経験も、想像していなかった経験もありましたが、確かに、このChanceに、いくつかのChallengeが出来て、少なくとも自分の視野・視点にChangeがあったと思うのです。それは、この文章で長々と述べてきたとおりです。
今から考えれば、私が「3C」という言葉に惹かれたのは、「社会人としての思春期」という時間が経過する上で、ストレートに心の響き、マッチしたからだと思うのです。
稚内から札幌への帰路で「成功とは目標ではなく旅である」という言葉を本で読みました。色々なことを経験して、その1つ1つを大切にすることで、その経験自体が成功体験となる。それを積み重ねて、人は成長していく…。この3ヶ月で、そうした人生観を強く持つようになりました。

行政書士になるという理由で会社を辞めると言い出して、多くの人に、ご心配をおかけし、そして応援を受けてきました。
それなのに、「社会人としての思春期」なのだと、まとめてしまうことには、正直、心苦しい思いがあります。
ここに書いたことが、今の私の正直な思いです。
可能であるならば、今後も温かく見守っていただければと思います。

2006年11月9日、ロイネットホテル仙台にて。
(一部、仙台駅前のネットカフェにて加筆修正。)

「余談」
会社を辞める前に、ある同僚と昼食に行きました。その時に私は「SI業界を外から見てみたいね」と言いました。その彼が覚えているかは分かりませんが…。
今後のとりあえずの仕事(まさに「お金のための仕事」)を探す中で、ちらほらSI業界に関するものがあります。ストレートにお金の話をしてしまいますが、時給が良いですよ。抜群に良い。SI業界の仕事を他の仕事と同じ土俵で、公平に眺めてみれば、それは一目瞭然に分かります。
こないだのイベントの仕事(今後も少しやりますが…)は時給が1000円で、どの仕事を見ても、まぁ800円~1500円くらいなものです。それが、SI業界関連は2500円~3000円ですからねぇ…。
いずれにせよ、SI業界での仕事は、それなりの専門技術が必要な仕事であって、社会的にそれなりの評価があるようです。1日8000円(時給1000円)が2万円(時給2500円)になるんです。SI業界というところは。
年収400万台だった(それも大したことないが…)男が、時給1000円(年収換算で300万にも満たない)の仕事をして感じたリアルです。その点はSI業界を見直しました。
ゲンキンな話をしてしまいましたが、そういう評価を受けている業界というのは、誇りに感じて良い事だと思います。
自分のこれからのことは、別に考えるとして。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。