薬事法改正によるネット販売規制は合憲か?

医薬品ネット販売規制「違憲の暴挙」–ケンコーコムらの行政訴訟初公判:特集 – CNET Japan: "医薬品のネット販売規制を定めた厚生労働省省令をめぐり、ケンコーコムとウェルネットが国を相手取って起こした行政訴訟の初公判が7月14日、東京地方裁判所にて開かれた。

今回の訴訟で原告側は、この省令が違憲であるとして、(1)第1類、第2類医薬品について、郵送等販売方法により販売する権利・地位があることを確認する、(2)薬事法施行規則等の一部を改正する省令で定める“対面販売の原則”について無効を確認する、(3)同省令の条項を取り消す–この3点を請求している。"

改正薬事法によって医薬品のネット販売が大幅に規制されました。これは、憲法の保障する「職業選択の自由(営業の自由を含む)」に反するのではないか?、ネット販売規制は厚生労働省令によって行われているのですが省令で出来ることなのか?という2点が争点だと思います。

さて、法律による営業の自由の制限が、合憲となるケースは、下記の2つのケースです。

「消極目的規制」
同業店舗の乱立などによって商品の販売が過激な価格競争に陥り、品質の悪化を招いて国民生活に害悪を与える影響がある場合に、警察的視点から行う規制。
この規制は、「厳格な合理性の基準」によって合憲か否かが判断される。規制目的の必要性や、規制手段が他の緩やかな規制で同一の効果をもたらすようなものはないかなどが問われる。

「積極目的規制」
国民経済の発展などを目的に、政治的視点から行う規制。
この規制は、「明白性の原則」によって合憲か否かが判断される。明白に違憲と判断されなければ、政治的な判断が尊重される。

憲法の重要な判例に、薬局距離制限事件というのがあります。
薬局の設置に距離制限を課した薬事法が、憲法22条1項(職業選択の自由)に反しないかが争点となりました。下記が判旨です。

一般に許可制は、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要するべきである。
(最高裁判所大法廷判例 昭和50年4月30日)

裁判所は薬局の距離制限の目的を消極目的規制と考え、距離制限については違憲と判断しました。

今回の改正薬事法では、副作用の危険性などを薬剤師や登録販売者から情報提供を受けることのできる対面販売が原則になったことによって、ネットでの販売が出来なくなりました。
目的からすると、薬局距離制限事件と同様に、「消極目的規制」に相当するのです。それでは、対面販売を原則にするという制限の内容はどうでしょうか。他にもっと緩やかな方法はないのでしょうか。(距離制限と比べれば、今回の規制はまだ合理性があるように思いますが・・・。)
ケンコーコムでは、薬剤師による情報提供をネットで行うとしていますが、それでは副作用を防ぐといった目的を果たせないのでしょうか。

もう一つの争点である省令による規制が妥当かという点については、改正薬事法を読み込んでみないと分かりません。
基本的には、改正薬事法が省令による規制の制定を意図しているか?、省令による規制が改正薬事法の趣旨に則ったものか?といったところが、判例からいっても判断の基準になるでしょう。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。