人月商売が嫌になった

SI業界における人月商売の問題が叫ばれて久しいところですが、私はこのやり方が心底嫌になりました。

私の今の雇用形態は、契約社員というやつで、その契約をしている会社から、システム開発の現場に派遣なのか請負なのか分かりませんが、いずれにせよ現場に毎日行って仕事をするというものです。良い言い方ではありませんが、いわゆるIT土方というやつです。

契約している時間のプラスマイナス20時間なら報酬の調整なし。多かったり少なかったりしたら増額になったり減額になったりという調整があります。よく、SI業界で会社間の契約をこういう形態でやりますが(いわゆる人月商売)、それを個人にも当てはめているわけです。つまり、契約している会社は絶対に損をしないわけですね。頭の良い方法です。

人月商売の問題点というのはいろいろあるのでしょうが、まず私が言いたいのは、こうした雇用形態は、人間性を無視しているということです。いくら努力しても報われないのです。まぁ、努力の方法にもよるのです。とにかく現場には行く。そして、仕事をしなければいい。いや、若干の仕事はするのです。立てられたスケジュールには遅れない程度には。そして、たっぷり残業をするのです。そういう努力は報われます。報酬に直結します。

しかし、これは正しい努力とはとても言えません。このような仕事のやり方を続けたとすれば、確実に人間性というものが破壊されるでしょう。正しい努力は、目の前の仕事を確実に迅速に合理的に進めることでしょう。そのために、勉強もするのです。いろいろなことを学んで、目の前の仕事に反映していくのです。ただ、こうした正しい努力は報われない。残業しないとなれば、報酬がプラスになることはない。多少休日の多い月や、何かの都合で仕事を休んだとすれば、確実に報酬はマイナスとなります。たとえ、スケジュールに一切の遅れが出ていないとしても。前倒しで作業を進めたとしても。

このような雇用形態に慣れてくると、人はやる気を失います。頑張っても報われないのですから。とにかく毎日現場に行って、できるだけ長い時間、現場にいさえすればお金が沢山貰えるなんて、尋常じゃないのです。正しい努力をしようとしている人は、絶句してしまうのです。人間性が否定されたような気がするのです。

ついでに言っておくと、それでも正しい努力をしている人は契約を切られることは少ないでしょう。ただ、だからといって「見てくれている人はいるから、頑張れ」という結論には至らないような気がします。短い時間できちんと仕事をしているのだから、その分、単価が上がって、長い時間を掛けて同じ量の仕事をする人がもらう残業代くらい貰えれば、努力も報われるわけですが、そううまくいくものではありません。単価なんて、下がりこそすれ、上がるものではないのです。

さて、私はこのような雇用形態を2年近く続けていて、だいぶ壊れてきたような気がしています。といって、どこかの正社員になれば若干は改善するかもしれませんが、これはSI業界の古くからの体質のようなものなので、多くは期待できません。さて、どうしたものか。これが目下のというか、ここしばらくずっとの悩みなのです。

ところで、私がこのようなことを書いたのは「フォーカル・ポイント」という本を読み始めたからなのです。「労働時間を半分にして、生産性と収入を倍にする」ということが書いてあるのですが、今の仕事をしている限り、労働時間を半分にすると、生産性が倍になっても、収入は半分になるのです。だから、読み続けるのが少し嫌になったのですが、でも言っていることは正しくて、間違っているのは今の仕事の方だと思ったわけです。

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この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。