職業人としてのアイデンティティについて

思うに、数年前の私は職業人としてのアイデンティティを見失っていたのである。見失っていたというと、もともとは持っていたようであるが、当時より以前というと、非常に若かったのであり、確固たるアイデンティティを持っていたとは言えない。
だから、数年前になって、ようやくアイデンティティを求めるようになったのだと思う。しかし、それが見当たらなかったのだ。
そうした職業人としてのアイデンティティの欠如を実感して、私はソフトウェアエンジニアの道を去ることを決意したのだった。その代わりに目指したのは、国による資格が身分を保障する仕事であった。それで生活が出来るかは自分の才覚によるところが大きいのだか、少なくともそれがどういう仕事であるかは、国が決めてくれる。
こうした立場は、今から思えば自らによる自らのアイデンティティ構築からの逃亡ともいえる。
その資格を得るには当然ながら試験に合格する必要があった。そのために会社を辞めた。しかし、私は勉強をそこそこにしかせず、試験に落ちて、その道を止めた。糧を得るために、ソフトウェアエンジニアに戻った。
ソフトウェアエンジニアに戻ったのは、あくまで糧を得るためである。だから、アイデンティティの欠如は何の変化もない。この感覚は私の自尊心を失わせた。少なくとも、健全な自尊心の構築を阻害した。一個人としての自立の障害となった。
結局のところ、私はソフトウェアエンジニアとしてのアイデンティティを築かなければならない。それは観念した。だが、どうやって。
私は勉強するしかないと思っている。ソフトウェアエンジニアとしての勉強ももちろんだが、それだけでは足りない。もっと幅広い勉強が必要なのだ。ソフトウェアエンジニアとは何なのかを知るためには、ソフトウェアエンジニア以外の仕事が何なのかを勉強しなければ、分からないと思う。
ソフトウェアエンジニアとして、社会に何かの貢献をする。そのためには、社会を知らねば、何をどうやって貢献すれば良いか分からないではないか。
そういうことを、いま考えている。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。