バレーボールはテレビ中継のために試合ルールを変えた。野球はどうだ?

現在、世界バレー(女子)が行われていて、TBSが日本の全試合をゴールデンタイムに放送するなどしている。全日本女子チームもここ数年で実力がつき、一時の低迷を吹き飛ばす活躍を見せている。

その低迷時代はインターネットの普及初期にあたり、当時の私は「V-Station」というバレーボール情報サイトを運営していた。まだ日本で同様のサイトが少なかったこともあり、日本最大級のサイトであったと自負している。地方に住んでいたので、バレーボール雑誌から記者の仕事をしないかという誘いがあったほどだった。

それはさておき、当時のV-Stationが扱っていたトピックの一つに、試合ルールの変更がある。今日はその話をしようと思う。

昔のバレーボールの常識は15点先取の5セットマッチであった。得点が入るのはサーブ権を持っているチームがラリーに勝った場合に限られる。だから、実力が伯仲しているチームが対戦する場合、サーブ権の取り合いが続いて得点が動かないということがあった。それは観戦するファンにとっても醍醐味の一つであり、サーブ権の取り合いが繰り返されているシーンは、いつ均衡が破られるのか息を飲んで見守ったものだ。(これをサイドアウト制という。)

現在のバレーボールはラリーポイント制を採用している。5セットマッチであることは変わりないが、25点先取(第5セットのみ15点先取)でサーブ権の有無に関わらず、ラリーに勝てば得点が入る。

V-Stationはその移行期に運営していた。だから、世界的な大会が行われるごとにルールが違い、その度にサイトで説明したりしていた。Wikipediaを見て振り返ってみると、以下のような推移である。

1997年11月 ワールドグランドチャンピオンズカップ
第5セットのみラリーポイント制。第4セットまでは各セットの25分59秒までサイドアウト制で、26分以降はラリーポイント制。

このルールは混乱を招いたのを覚えている。セット毎にルールが違うのならまだしも、セットの途中でルールが変わるのである。だから、コートサイドには大きな時計が置かれ、そのセットの経過時間を表示していた。ラリーポイント制では4~5点差がつくと逆転が非常に難しくなるため、26分が近づくと勝っているチームが時間稼ぎをしてラリーポイント制に持ち込もうという作戦もあったように思う。

1998年4月 Vリーグオールスターゲーム
ラリーポイント制で21点先取のゲームを1セットに2回行う。一方のチームが2ゲームともに取ればそのセットを取るが、双方のチームがゲームを取り合った場合は7点先取のゲームを行い、そのゲームを取った方がセットを取る。
一方のチームが2セットを取れば試合の勝者となるが、双方のチームがセットを取り合った場合は15点先取の第3セットを行う。

このルールは覚えていなかった。Wikipediaの説明を2回読んで初めてルールが理解できた。実に複雑なルールである。

1999年 ルール改正
25点先取(第5セットのみ15点先取)のラリーポイント制。(現行ルール)

この他にも、第5セットのみラリーポイント制というルールもあったように思う。いずれにせよ様々なルールを試した結果である現行ルールは、サイドアウト制のような息の詰まるシーンは少なくなったが、非常に分かりやすくなったことだけは事実だ。

さて、このようなルールの変更はなぜ行われたのだろうか。それはテレビ中継との兼ね合いと言われている。サイドアウト制の場合、試合が膠着するといつまでも得点が入らず、試合が前に進まない。テレビ局としてはいつまでも放送時間を延長できるわけではなく、放送が大変に難しい。それでなくても、バレーボールは3セットで終わることもあれば5セットかかることもあり、試合時間が読めないのである。(だからバレーボールの試合が完全生中継されることはない。試合展開に応じて中間のセットの放送をカットして結果のみを報じることが多い。視聴者としても放送時間の余りを見ていれば、どちらが勝ったかだいたい分かるといったこともある。)

ラリーポイント制にすれば、少なくとも1セットの試合時間は予想できるようになる。それだけテレビ中継もやりやすくなるというわけだ。

理想的なのはサッカーだ。45分ハーフで前・後半で90分。ロスタイムはあるが数分のことに過ぎない。延長やPKについては、いつもというわけではないのでやむを得ないし、延長する時間は決まっている。これほど放送時間を組み立てやすいスポーツはない。

一方で、先週行われていた日本シリーズである。ロッテと中日による7試合の戦いのうち、延長戦が3試合もあった。特に第6戦は過去最長で5時間43分、フジテレビでの放送時間は6時間2分となり、CMを5時間分しか販売していなかったために残る1時間2分はCMなしでの中継という民放ではあり得ない放送となった。

6日にフジテレビが中継した日本シリーズ「中日―ロッテ」第6戦は、シリーズ史上最長試合となり、日付けが変わった7日午前0時2分まで放送した。6日午後6時の放送開始から6時間2分。日本シリーズでは最長時間の中継となり、午後11時からはCMが入らない珍状態となった。

6日のテレビ欄で、中継時間を「試合終了まで」と明記していることに加え、日本野球機構(NPB)との間で、中継を担当する各局はプレーボールから試合終了後の監督インタビューまでを必ず中継する取り決めとなっており、最後まで放送しなければならなかった。

同局は5時間以内での試合終了を想定。午後11時までしかシリーズ中継のCMを販売しておらず、午後11時から午前0時までの約1時間はCMが一切ない、民放としては珍しい放送となった。

野球中継の後に予定していた映画「バブルへGO!!」は3時間10分遅れの7日午前0時10分から放送。その後の放送も繰り下がり、スポーツニュース「すぽると!」は2時間55分遅れの午前3時10分からとなった。ナゴヤドーム内でもフジテレビ関係者が忙しく走り回り、局内でも「大変だ!」と大忙しで番組編成作業に追われた。

CMを放送しなかった午後11時台について、ある民放関係者は「通常のCM収入は5000万円くらいではないか」とみている。別の関係者は「3000万円ぐらいの損失はあるのではないか」と話した。

第8戦の放送権はどこも取得しておらず、日本野球機構関係者が各局に中継の依頼をスタート。第1、2、5戦の地上波全国中継がない異例のシリーズとなっただけに、今後の放送も注目される。

テレビ局のために試合ルールを変えるなんて・・・という見方もあるだろう。しかし、一方でスポーツはビジネスになっている面を見逃すわけにはいかない。その中で最大のものは放映権料ビジネスである。

バレーボールはそのために世界的にルールを変えた。プロ野球も今回は日本シリーズということもあってフジテレビが頑張ったが、普段は平然と試合途中で打ち切られるのである。我々が慣れっこになっていることもあるが、冷静に考えれば勝敗が分からないまま放送が終わるスポーツ中継というのは異様である。何か抜本的な対策があっても良いのかもしれない。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。