新たにビジネス・サービスを始める際の商標について調べてみた

新しいビジネス、新しいサービスを始めようとするとき、初期のうちに必ず考えておかねばならないことの一つに商標があります。
実は、いま抱えている仕事の一つに新サービスの商標についてのことがあります。そういえば、6年くらい前にも新しいフレームワーク製品の商標の担当をやっていたこともあります。
そんなわけで、商標について改めて調べてみました。

商標の目的

商標法というのがあります。これによると、商標は商品やサービスが識別できるということ以外に2つの目的があることが分かります。1つは商標には業務上の信用が宿るということです。もう1つは、その商標がついている商品やサービスには一定の品質が保証されているであろうという需要者の保護です。
いま私がこの文章をPanasonicのレッツノートで書いていますが、Panasonicは「レッツノート」という商標が持つ頑丈だとか高品質といった信用を活かしたビジネスを継続的に行うことができ、一方で私は「レッツノートだから大丈夫だろう」という安心感を持ってレッツノートを買うことができたわけですね。

商標の要件

商標法によると「文字、図形、記号もしくは立体的形状もしくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であって、業として商品を生産等又は役務を提供等する者がその商品又は役務について使用するものをいう」と定義されています。
たいていの商標は文字でできています。文字がデザイン化されたもの(ロゴ)を併せて使うことが多いと思います。ところで「立体的形状」という言葉が入っています。これは例えばケンタッキーのカーネルサンダースの人形です。立体的形状は平成8年の法改正で認められるようになりました。

また、「業として」にも注意が必要です。たとえばブログのタイトルは、ブログが「業として」とは言い辛いため商標としては認められないということです。とはいえ、例えば小飼弾さんの「404  blog not found」とかは十分に商標と言って良いように思いますが・・・。

商標登録

日本では商標は登録主義をとっています。登録主義に対して使用主義というのがあるのですが、その違いは「その商標を実際に使っていなくても商標登録できるか否か」です。つまり、日本では商標を使う前から登録だけしておくことができるのです。だから、思いついた商標はどんどん登録しましょう・・・。というのは言い過ぎな気がしますが、実際に商標登録されているものを調べると、そんな商品しらないよ・・・という商標がたくさん登録されています。とはいえ、商標登録にはだいたい半年~2年の期間を要し、費用も最低でも100万円以上(登録料の10年分かその半分を前納する必要があるため)かかるので個人や小さな会社がほいほいと登録できるようなものではありません。

ところで、「レッツノート」という商標はノートパソコンだけでしか使ってはいけないのか、というとそうでもありません。登録商標は特許電子図書館の商品出願・登録情報というサイトで調べることができます。実際に、レッツノートを調べてみましょう・・・。

参ったな・・・。Panasonicはレッツノートを商標登録していないのか!

でも、それは甘い!甘すぎる!

「商標(検索用)」というだけでなく、「称呼」でも検索する必要があります。

すると6件出てきます。一覧を見てみると、

これ、全部Panasonicによる登録なのですが、1番と4番は何が違うのだろう?と思うでしょう。違いはロゴでした。先に見たように商標とは「文字、図形、記号・・・」なので、ロゴの形が違えば別の商標登録が必要になるわけです。

ところで、「レッツ」で調べてみると、検索結果が20件となります。その1つである東レインターナショナルによる登録内容を見てみると、

【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】のところに、

25 仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴
28 おもちゃ,人形,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,運動用具,釣り具

と、書いてあります。
もう1つ、日立製作所の登録内容では、

7 起動器,交流電動機及び直流電動機(陸上の乗物用の交流電動機及び直流電動機(その部品を除く。)を除く。),交流発電機,直流発電機,家庭用食器洗浄機,家庭用電気式ワックス磨き機,家庭用電気洗濯機,家庭用電気掃除機,電気ミキサー,電機ブラシ

をはじめとして、いくつかの区分が書いてあります。
つまり、同じ商標であっても、商品及び役務の区分が違えば、登録可能なのです。

Panasonicは「レッツノート」としては商標登録せず、「Let’s note」として登録していました。もし、「Let’s note」としてすら登録していないとして(あり得ないことですが)、新たにノートパソコンの商標として「レッツノート」を登録したらPanasonicに訴訟を起こせるのではないか、それで使用権を売って云々・・・と悪巧みする人が出てくるかもしれません。しかし、結論から言うとそれは徒労で終わる可能性大です。それは・・・?

商標の先使用権

というのがあるからです。
商標登録が完了すると、その商標には専用権と禁止権が認められるようになります。専用権とは「商標権者が指定商品または指定役務について、独占排他的に登録商標を使用することができる」権利です。禁止権とは「自己の登録商標と類似する範囲についての使用を禁止する効力」です。
商標の先使用権が認められると、商標権者といえども通常使用に関して口出しが出来なくなります。しかし、商標の先使用権はただ商標が登録される前から使っていればそれで認められるというものではなく、既に一般的に広まっている商標になっていることが求められます。商標の目的の1つに需要者(消費者)の保護がありました。一般的に広まっていない商標なら需要者の保護は必要ないので、先使用権を認める必要がないというわけです。
レッツノートに関しては、既に十分に広まっているので先使用権が認められるでしょう。

と、今からレッツノートという商標をノートパソコンで使うことを商標登録出願すれば認められるような前提で書いてきたのですが、実はそもそもそれすら無理なのです。商標登録の出願は特許庁に対して行うのですが、そこでは審査があります。その審査で、既に他に使っている人がいないか?という調査が行われるので、そこで引っかかる可能性大です。

商標の確認は呼吸をするようにやろう!

そんなわけで、商標について調べてみました。
新しいビジネス・サービスを始める際には、商標を登録することを考えてみる。少なくとも使おうとしている商標が既に登録されていないか、登録されていなくても使われていないかを確認してみる。といったことは、必ずやるようにしましょう!

(以下、5/23追記)

専用権と禁止権

商標は登録されると専用権と禁止権という2つの権利が与えられます。「Let’s note」はパソコン関係の商品で使う商標として登録されています。ここで専用権とは同一商品・同一商標について認められるもので、Panasonicは「Let’s note」という登録商標をパソコンの商標として使用することが専用的に認められ、他に「Let’s note」というパソコンを作っている会社がいたら、やめろ!と言えます。
では「Let’z note」というパソコンならどうでしょうか。これは同一商品・類似商標というカテゴリになるのでPanasonicには禁止権が認められ、やはりやめろ!と言えます。さらに「Let’s note」というプリンターは類似商品・同一商標、「Let’z note」というプリンターは類似商品・類似商標ということで、ここまでは禁止権が認められるのです。

ところで、「Let’s note」という文房具のノートならどうでしょうか。これは同一商標ですが商品は非類似です。ここまではさすがに禁止権は及ばないので、別の会社が使っても問題なさそうです。
一方、「Panasonic」という文房具のノートはどうでしょう。Panasonicが文房具を作っているという話は聞いたことがありませんが、いざコンビニなんかにそういうノートがあったら、「あぁ、さすがPanasonicはそこまで乗り出すのだな」と思う人もいるわけです。この場合、商標権としての保護は及びませんが、同じ商標法の規定として防護標章制度に基づく権利による禁止権というのが認められる可能性があります。防護標章制度では、防護標章の登録を申請し、それが認められれば同一商標・非類似商品についても禁止権が及ぶようになります。但し、防護標章と認められためにはその商標が著名であることが求められるので、Panasonicくらい著名なら認められるでしょうが、何でも認められるというわけではなりません。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。