会社分割ってなに?

楽天がクレジットカード・消費者金融事業の再編を行うと発表しました。その内容はクレジットカード事業と消費者金融事業を行う楽天KCを会社分割して、クレジットカード事業を楽天クレジットに統合。消費者金融事業はJトラストに譲渡するというものです。

企業再編の方法

企業再編にはいくつかの方法があります。まず今回の楽天KCのように、クレジットカード事業と消費者金融事業を分離するような「会社分割」。複数の会社を一緒にする「会社合併」、さらにホールディングス制に移行する際にとられる「株式交換・株式移転」があります。この3つは会社法で定められた契約によって行う方法なので、いろいろと便宜が図られています。「事業譲渡」も会社法上での規定はありますが、契約は民法上の契約として行われます。

  • 買収
    • 株式取得・・・会社組織は変わらないがオーナーが変わる
      • 株式譲渡
      • 募集株式の割当て
      • 株式交換
        • 株式交換(吸収型)
        • 株式移転(新設型)
    • 事業譲渡
      • 全部譲渡
      • 重要な事業の一部譲渡
      • 重要でない事業の一部譲渡
  • 会社分割
    • 吸収分割
    • 新設分割
  • 会社合併
    • 吸収合併
    • 新設合併

企業再編の手段を細分化すると上記のようになります。会社分割、会社合併、株式交換・株式移転は会社法の範疇にあり、吸収型と新設型に分かれます。吸収型とは既存の会社に吸収される方法です。新設型は新たな会社を作ってそこに持って行きます。

吸収分割と新設分割

楽天KCは会社分割して消費者金融事業をJトラストに譲渡しますが、その際に考えられる方法がいくつかあります。

楽天KCに残す事業をクレジットカードと消費者金融のどちらにするかを決めなければなりません。楽天のリリースを見ると、消費者金融事業の方を残すことになっています。まず、当事者を楽天KCと楽天クレジットとする吸収分割をやるのです。そして、消費者金融事業が残った楽天KCをJトラストに譲渡します。これは次に説明する方法と比べると分かるように、理にかなった方法です。

逆に楽天KCにクレジットカード事業を残すとしたらどうでしょう。まず、消費者金融事業で新会社を作る新設分割を行い、新会社の株式をJトラストに譲渡するという方法が考えられます。消費者金融事業がJトラストの一部門になるのなら、当事者が楽天KCとJトラストでの吸収分割でも構いません。では、クレジットカード事業が残った楽天KCはどうすれば良いのでしょうか。楽天クレジットと統合するわけですから、楽天クレジットと会社合併を行うとか、クレジットカード事業を楽天クレジットに事業譲渡した上で、楽天KCを消滅させるといったことが考えられます。なんだか二度手間で面倒です。理にかなった方法とは言えないようです。

簡易手続と略式手続

吸収分割を行うには株主総会の特別決議が必要となります。楽天のリリースを見てみると、7月29日に株主総会を開くと書いてあります。株主総会は条件によっては省略できるのですが、今回のケースでは省略できません。省略できるケースは以下のとおりです。

  • 簡易手続
    • 分割会社(楽天KC)が分割する事業が総資産の1/5以下の場合の分割会社の株主総会
    • 承継会社(楽天クレジット)が承継する事業の対価が純資産の1/5以下の場合の承継会社の株主総会
  • 略式手続
    • 分割会社(楽天KC)が承継会社(楽天クレジット)の被支配会社の場合の分割会社の株主総会
    • 承継会社(楽天クレジット)が分割会社(楽天KC)の被支配会社の場合の承継会社の株主総会

まず、どちらの会社にとっても総資産または純資産の1/5以下という条件を満たさないので、簡易手続は適用されません。
略式手続では資本関係が重要です。楽天KCは株式の97.26%を楽天が、楽天クレジットでは株式の100%を楽天が持っています。しかし、今回の会社分割の当事者はあくまで楽天KCと楽天クレジットなので該当しないのです。
簡易手続が準備されている理由は規模が小さいからです。略式手続は先方が支配会社なら、自社の株主総会に出てくる人は結局先方会社の人であり、当然に賛成することが予期されるため、わざわざ株主総会で決議をとる必要がないからです。

労働契約の承継

楽天KCの会社分割において、楽天KCの従業員はどうなるのでしょうか。基本的には楽天KCと楽天クレジットの間で結ばれた分割契約で定められたとおりになります。しかし、楽天クレジットに移籍したい人もいれば、移籍したくない人もいるわけで、下記の例外が認められています。(事業譲渡では、下記のような一括簡易な方法はなく、移籍するすべての従業員から承諾を得なければなりません。)

  • 分割契約で承継(楽天クレジットに移籍)とされた人
    • クレジットカード業務に従事する従業員は、当然に承継される。
    • クレジットカード業務以外に従事する従業員は、原則承継であり、書面で異議を申し立てれば残留も可能。
  • 分割契約で承継とされなかった人
    • クレジットカード業務に従事する従業員は、原則残留であり、書面で異議を申し立てれば承継も可能。
    • クレジットカード業務以外に従事する従業員は、当然に残留。

債権者保護手続

今回の吸収分割によって楽天KC、楽天クレジットのいずれの会社も財務状態は大きく変わります。よって、債権者としては「大丈夫かな?」と思うこともあります。会社法の規定では各債権者から個別の承諾を得る必要はありませんが、不満のある債権者は全額の弁済を求めるなどの債権者保護手続が整備されています。(事業譲渡では、すべての債権者から個別の承諾を得なければなりません。)

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。