スマホ時代のオフロード戦略の落とし穴

スマートフォンが普及したことによりデータ通信量が増え、パケット定額制の見直しが現実味を帯びています。既に海外ではそうした実例があり、日本でもいつ定額制が崩れるか分からない状況と言えるでしょう。

MVNOキャリアではあるものの日本通信は、データ通信の多いユーザと少ないユーザの公平性を訴えて定額制とは違う新たな料金体系の提案を始めています。

パケット定額制が崩れる理由は、データ通信量の増加によって既存の3G回線の容量では間に合わない可能性が出ているからで、定額制から従量制に切り替えることによってユーザの方でデータ通信量の節約意識を喚起しようという意味があります。また、従量制となった際に定額制の時よりもキャリアの収入が増えることになれば、それで回線の増強を行うことも出来るわけです。

キャリアは別の方法も考えています。3G回線とは別の通信路を準備して、使える時にはそっちを遣ってもらおうという方法です。3G回線の逼迫は、今のところ全国的に起きているわけではなく、都心部の繁華街などに限られるため、そうしたエリアでのみ使える通信路を準備するというわけです。こうした戦略をオフロード戦略といいます。

具体的にはWiFiスポットがあります。ソフトバンクやドコモは以前から街中のWiFiホットスポットを増やしており、それを無料もしくは低額でユーザに提供することで、WiFiが使える時はWiFiを使ってもらおうとしています。

ところで、多くのスマホユーザはバッテリーをもたせることに気を使っています。現時点でのスマートフォンの性能とバッテリー容量のバランスはあまり良いものではなく、性能向上による消費電力の増大の割にはバッテリー容量が増えていません。もちろん、技術の進化によって消費電力を下げる試みはどこのメーカーでもやっています。OS自体もその努力を続けています。にもかかわらず、現時点ではユーザの方でバッテリーのもちに気を使う必要があるのです。

これがオフロード戦略の落とし穴になります。バッテリーをもたせるための定番テクニックはWiFiをOFFにすることだからです。これはあらゆるサイトや書籍等で紹介されている方法で、ドコモなどのキャリア自身も推奨しているのです。

オフロード戦略では、通信路の切り替えをユーザが意識せずにすむことが要所です。ユーザの大半は、「ここは混雑するエリアだからWiFiに切り替えよう」というほど気遣いすることはまずありません。そもそも、そんな意識をさせないといけないのなら、サービス提供者としては失格と言えるでしょう。

現在のスマートフォンでも、WiFiを常時ONにしてあれば、WiFiを使えるエリアに入った時に自動的に3GからWiFiに通信路を切り替える機能を持っています。しかし、WiFiが常時OFFにされているのならば、何の意味ももたらさないわけです。

オフロード戦略に突き進むならば、バッテリーのもちを改善する。これを同時に行わなければ、いくらWiFiスポットを増強しても絵に描いた餅に終わる可能性大と言えるでしょう。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。