年収とやる気は関係するのか?

仕事をしている以上、その仕事でどの程度の報酬がもらえるかというのは重要です。

転職活動をするにしても、内定が出た会社から提示された年収が前職よりかなり低かったりすると、その会社に入るかどうかはかなり躊躇します。私の経験でも、年収が前職からマイナス150~200万円という提示をした会社があって、丁重にお断りしたことがあります。

では、今の会社からもらっている年収と仕事のやる気はどういう関係にあるのでしょうか。経営組織論の中でもモチベーション理論として、そうした分野の研究成果がいくつかあります。ここでは、そのうち2つを紹介します。

1つ目は、ハーズバーグの二要因論です。ハーズバーグは従業員の欲求に応える手段として、衛生要因と動機づけ要因の2つの要因があるとしました。衛生要因とは、会社に対する不満を抑えることはできるが、やる気を引き出すまでは至らないもの。動機づけ要因は、会社に対する積極的な貢献などやる気を引き出すものです。ハーズバーグによれば、年収は衛生要因に入ります。つまり、年収が低ければ転職を考える。ある程度高ければ転職は考えない。でも、年収が高いからといってやる気につながるかというと、そうでもない。それがハーズバーグの結論です。

ちなみに、衛生要因には、年収以外に、会社の方針や上司との関係、人間関係といったものがあります。一方、積極的なやる気を引き出す動機づけ要因は、仕事そのもの、達成感、承認、昇進といったものです。
実は、ハーズバーグの理論はマズローの欲求5段階説がベースになっています。人間の欲求は生理的欲求→安全欲求→社会的欲求→自尊欲求→自己実現欲求という順番で昇華していく というものですが、これに当てはめると、年収は生理的欲求や安全欲求といった低次の欲求を満たすものなのでやる気にまではつながらず、仕事そのものによって自尊欲求や自己実現欲求といった高次欲求が満たされ、そのためにやる気が生まれるというわけです。

2つ目は、アダムスの公平理論です。アダムスの理論はマズローの欲求5段階説をベースにしておらず、人は状況に応じて行動を変えるというコンティンジェンシー理論的アプローチをとっていることが特徴です。公平理論は、年収と自分の仕事の成果のバランスをとるように人は行動するとします。具体的には、自分のやっている仕事と比べて年収が低いと感じている人は、手を抜いたりして、もらっている年収と仕事のバランスをとるわけです。逆に、自分がやっている仕事と比べて年収が高いと感じている人は、もらっている年収とバランスがとれていると思えるまで頑張って仕事をします。

この理論によれば、会社があらかじめ高い年収を出しておけば、その分まではやる気を出して頑張ってくれるということになるので、動機づけになるのですが、会社としては継続的にその人の実際の成果よりも高めの年収を出し続けるというのは困難です。公平理論は正社員の年俸制や月給制では使いづらく、パートやアルバイトの時給制とは比較的相性が良いと言われています。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。