バランス・スコアカード(BSC)の使い方

前回の記事では、バランス・スコアカードの機能について説明しました。

今回は、BSCの使い方について説明しようと思います。 BSCの使い方については、戦略マップを描く説明を既に行っています。

それで十分なのではないでしょうか? いえ、違うのです。前回の記事にあるように、BSCにはコミュニケーション機能、ナビゲーション機能、フィードフォワード機能があります。すべての機能をきちんと働かせるためには、もっと使い方があるのです。

ステップ1:ビジョンと戦略を設定する

IMG_2372.jpg

最初にやることは、ビジョンとそのビジョンを実現するための戦略の設定です。

ビジョンはブレインストーミングや親和図法を使って、数年後の理想像を描きます。あまり突拍子もないのは良くありませんが、守りに入った保守的なビジョンも良くありません。頑張れば実現しそうで、実現したらワクワクできるようなビジョンがを設定します。 ビジョンを設定したら、それを実現するための戦略を考えます。

ステップ2:視点を決める

次に、視点を決めます。

BSCの視点というと、財務の視点、お客様の視点、業務プロセスの視点、人材・変革の視点の4つが有名なのですが、必ずしもこの4つでなくても良いのです。

BSCは営利企業だけでなく、医療機関や行政機関でも使用できます。その際は、例えば「財務」の視点が必ずしも適しているわけではありません。「効率的な行政」といった視点であっても良いわけです。

視点を決めるためには、予め設定したビジョンを実現するための戦略や、その戦略を達成するための重要成功要因として、どのようなものが考えられるかを挙げてみると良いでしょう。その重要成功要因の傾向を見て、適した視点を設定します。

冒頭に挙げた本に、組織の種類毎の視点例が挙げられているので、参考にすることができます。 視点を決めた後は、視点を上から下に「どうやって実現するのか」、下から上に「なぜやるのか」と追いかけられるのか。その説明に一貫性があるのかを確認します。

ステップ3:戦略マップの作成と戦略目標の設定

ステップ1で設定したビジョンを実現するための戦略を具体化します。ステップ2で設定した視点に基づき、戦略マップを描きます。戦略マップについての説明は既に行っているので、ここでは省略します。

戦略目標とは、戦略マップ上に描かれる各視点での施策のことです。戦略マップと別に考える必要はありません。

戦略マップの作成にあたって、以前の記事では「お客様の視点」から検討すると書きました(上図のとおりです)。これは、少なくとも新規ビジネスプランを考えるという上では、まずはお客様の視点で満足に値するものを提供しなければ、その先の話は進められないため、そうしました。

ただ、経営全体のことを考えると、コストダウンや効率化といった方策もあります。それを含めて考えるならば、「財務の視点」からトップダウンアプローチで検討を進めていく方が良いでしょう。

ステップ4:重要成功要因を設定する

視点毎に重要成功要因(CSF:Critical Success Factor)を挙げます。

戦略マップ上に描かれた戦略目標を実現するためには、どのような施策があるかを考えます。ビジョン→戦略(戦略目標)→重要成功要因と、施策をドリルダウンして、実行可能なものに落とし込んでいくわけです。

重要成功要因を設定するには、まず、それぞれの戦略目標で考えられる施策(業績向上要因:パフォーマンスドライバー)を出来るだけ多く考えます。最低でも戦略目標毎に20個は考え出したいところです。

最後に、業績向上要因の中で優先順位をつけ、2~3つ程度の重要成功要因を決定します。

ステップ5:業績評価指標を設定する

重要成功要因を設定したら、その達成を評価するための指標を設定します。

目標設定や実績測定時に、どのような指標で評価すれば、その重要成功要因を達成したかどうかを確認できるかを考えます。

ステップ6:達成目標を設定する

ステップ5で設定した業績評価指標に基づき、具体的な数値目標(ターゲット、達成目標)を設定します。

達成目標は、あまり保守的なものではやる気につながらないし、強気すぎるものでは意気消沈してしまいます。 ある程度のストレッチ(背伸び)で実現出来る程度の数値を設定すると良いでしょう。

ステップ7:組織、従業員にブレイクダウンする

ステップ6までで全社としてのBSC作成は終了です。 今度は、それを各組織、従業員にブレイクダウンしていきます。

ブレイクダウンといっても、単に数値目標を細分化するというだけではありません。各組織、従業員のBSCを作っていくのです。そうすることで、全社のBSCが各組織、従業員にとって肚落ちするものとなります。 これが、BSCの持つコミュニケーション機能なのです。

ステップ8:評価とフィードフォワード

月次または四半期毎に、下記2つの評価を行います。 1つは、達成目標に対して、前月もしくは前四半期の達成度がそのようになった理由を探ることです。いわゆる達成度評価です。次月もしくは次四半期の業務遂行に役立てます。

もう1つは、設定した業績評価指標や達成目標の設定が適切なのか、重要成功要因が達成すれば戦略目標も果たせるのかを確認することです。つまり、作成したBSC自体の改善を行うのです。

単にフィードバックするだけでなく、きちんと次に活かしていくフィードフォワードの仕組みがBSCには組み込まれているのです。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。