ビジネスの現場で活用できる人工知能は何か

強いAIと弱いAI

人工知能(AI)の研究には2つの立場があります。

1つは強いAI。これは、人間の頭脳の仕組みをそのまま人工知能にしてしまおうというもので、これができればさまざまな可能性が広がります。人工知能を使うと何が変わるのかという記事で挙げたドラえもんの頭脳(人工知能)などは、完全に強いAIの理想像といえます。

もう1つの弱いAIは、人間が知能を使ってする一部の仕事を人工知能に肩代わりさせようというものです。その仕組みは、人間の頭脳を真似る必要はありません。「空を飛ぶものを作りたいからといって鳥の羽ばたきを真似する必要はない」と説明されます。鳥の羽ばたきから揚力を発見して、それを再現して飛行機を作ってしまえば、羽ばたきそのものはどうでも良いのです。

Watsonは弱いAI

いま、実用的に使われている人工知能は、その多くが弱いAIをベースにしています。機械学習が話題になっていますが、これも従来型のものであれば弱いAIです。
人工知能の代名詞的存在であるWatsonも、比較的古い技術がベースながら、機械学習を取り込むなどして精度を上げてはいますが、やはり弱いAIといえます。Watsonを開発したIBM自身が、Watsonは人工知能ではないと言っているので、さもありなんと思えます。

こうした弱いAIの特徴の一つは、使うにあたって人間のサポートが必要なことです。探索などの仕組み(アルゴリズム)は人間がすべてを考えてプログラミングする必要があります。機械学習では、人間がアルゴリズムまで考える必要はありませんが、何に注目して学習させるかといったことは人間が考えておく必要があるのです。

ディープラーニングの登場

最近は第3次人工知能ブームといわれますが、技術的なブレークスルーはディープラーニングの登場です。ディープラーニングは、機械学習の手法の一つに位置づけられますが、重要なのは「何に注目して学習するか」に、コンピュータ自身が気づくことができる点です。
ディープラーニングの内部は、人間の脳にあるニューロンを人工的に作ったニューラルネットワークを何層にも重ねたものであり、人間の脳の仕組みを真似た強いAIです。

人工知能の研究では、弱いAIの研究が全盛であった時期が続きました。1950年代の第1次人工知能ブームのあたりで、シンプルなニューラルネットワークであるパーセプトロン(強いAI)がもてはやされたことはありますが、それの限界が見えたところで、弱いAIにバトンタッチしました。
1980年代の第2次人工知能ブームにおいても、注目されたエキスパートシステムは、人間の持つ知識をただ受け入れて、あとは通常のコンピュータ・プログラムとして処理するものであり、弱いAIでした。

それが、ディープラーニングの登場で強いAIが復活したわけです。ここが今、最大に注目されているポイントです。
ディープラーニングは既に実用化されているのか?というと、YesでもありNoでもあるというのが現状ではないでしょうか。Googleなどが画像認識や音声認識といった分野で応用しているということですし、Caffeなどのソフトウェアでディープラーニングを体験することもできるようになってきてはいます。
ただ、本当の意味で実用化したといえる状態になるのは、WatsonやAmazon Web Services(Amazon MLという機械学習サービスがある)といったクラウドで気軽に使えるようになってからではないかと思います。

ビジネスの現場では、当面は弱いAIで?

ディープラーニングのような強いAIの進展には注目しておくべきです。
しかし、当面のことを考えると、ビジネスの現場では、Watsonや従来型の機械学習などの弱いAI、さらにはRやSPSSといった統計処理によるビッグデータ解析などを導入していくのが得策と言えるのではないでしょうか。それで解決できる課題は、現場にはたくさんあるはずです。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。