IoTとAIについてもう一度考えてみる

一昨年くらいから「IoTとAIで日本を変えよう」と言ってきました。もともとは、最初のWatson本「初めてのWatson」を出したときに、サインを求められて、名前を書くだけでは物足りないので、言葉を入れたんですね。それが「IoTとAIで日本を変えよう」。

IoTとAIに関する報道は日々数え切れないほどされています。私も、特にAIについてセミナーや研修での登壇を繰り返してきました。AIについては、WatsonやAzureといったクラウドを使って、実際に試してみてもらうということを主にやっています。最近は、機械学習やディープラーニングの初歩を教えるような活動をやっています。

ただ、特にAIについては「で、何に使うのか」という質問に対する答えがなかなか出ていないというのが現状のように思います。たしかに、画像認識や機械学習によるリコメンデーションといったAI的技術を上手く使ったソリューションが出てきているのは事実です。しかし、期待した割には、これだけ騒がれている割には・・・という感じもしないではありません。

IoTに関しては、一言で言えばいままで取っていなかったようなデータを取る技術です。アクチュエータもあるので、取るだけではなくて動かす方もありますが。少なくとも狭義で言えば、それは間違いないとは思うのですが、それだけと言ってしまえば、やはりつまらない。

結局のところ、AIにしろIoTにしろ技術なので、何に使うか次第です。何に使うか、どこで使うかという観点で私が注目したいのは、リアルの世界です。いままでのITの用途というのは、基本的には画面の中、ネットの中に閉じこもっていました。その中の世界では、非常にうまく進歩してきたといのが現在のITでしょう。

しかし、その進歩はリアルの世界ではいまひとつ活用されていないのが現状だと思います。いまだに紙とペンとか、せいぜいExcelという不満はあちこちから聞こえるし、だったらIoTとかAIといった流行り言葉に浮かれる前にまずはIT化しなさいというお説教も聞こえてくる。私自身が言ったこともある。

ただ、単なるIT化で上手く行くのなら、もう上手くいっているはずなんです。それが、そうでない理由は何でしょう。おそらく、いままでのITでやるより、紙とペンの世界の方が圧倒的に気軽で、もしかしたら便利だったからでしょう。つまり、IT化の限界というか大きな壁があったわけです。

その壁を取り除き、限界を広げる技術がIoTとAIだと考えたらどうでしょう。IoTとAIの前にIT化じゃなくて、(従来型の)IT化が難しいからこそIoTやAIを入れようという考え方です。

IoTはかゆいところに手を届かせるための技術ではないかと思います。それは、単にITのどうこうじゃなく、世の中のいろいろを変えるための技術。なんだか、世の中で騒がれている(広義の)IoTに関する言説に近づいてきましたが、そういうふうに考えないと詰まらないのがIoTかもしれません。

そういう広義のIoTで捉えると、AIは主役にはならないかもしれません。少なくとも汎用AIが出てくるまでは。IoTが取ったデータをなんだと思うか、貯めたデータをどうするかというところでAIが出てくるのであって、AIだけで何かが変わるわけではないと思うのです。

そこまで考えた上で、もう一度、IoTで何が変わるのかを考えてみたいと思います。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。