AIのスキルが持つ価値はたぶん大したことはない

AINOWの「あなたのAIスキルはあなたが思っているよりも価値がない【前編】」を読んで、さもありなんと思ったので、少し書いておきます。

この記事に書いてあることを一言で言えば、

  • AIモデルを作るスキルよりも、データをたくさん準備できる方が価値がある
  • AIモデルを作るスキルを持つ人の飯の種は、AIライブラリに奪われてしまう

あ、二言になりましたけど・・・。

まぁ、そうだよねと思うわけです。私自身もAIについての研修をやったり、カリキュラムを作っているのですが、基本的にはあまり小難しい理論を語ることはありません。そもそも、私自身が研究者としてのキャリアを築いてきたわけではなく、情報システム開発の一環として、たまたま人よりも早くAIに触れたという程度なので、小難しいことはあまり語れないのです。

とはいえ、小難しいことを教えて欲しい、語って欲しいという要求もあるのですが、無理ですとお断りしています。それと、心のどこかで、あんまり意味ないですよ・・・と思っているから。

これは、AIを学ぶこと、AIを使うことが意味ないと言っているのではなくて、AIそのものの小難しいことを学ぶよりも、AIを使うための広範囲な努力について知った方が有意義で、最終的なAI活用のメリットにつながりますよ・・・と、そう思っているからです。

いま、ITを学びたいという人が、どこまでコンピュータの動作原理を学ぼうとするでしょうか。ゼロとイチのチカチカよりも、PHPとかJavaScriptを学んだ方が飯の種になることは間違いないし、ITって便利だな、やって良かったなと思うでしょう。それと同じことで、AIを学ぶために数学からやり直すよりは、WatsonやAzure、Google、Amazon・・・の提供するコグニティブAPIや、scikit-learnやKerasの使い方を学んだ方がAIのメリットに早く近づけると思う。

そして、数学からやり直している人よりも早く、データの重要性に気づくのです。まだ、MNISTをやりました、Irisデータセットをやりましたという程度なら、コンピュータの性能って大事だね、GPU欲しいなくらいでしょうけど、実際に何か具体的な課題が与えられて画像認識で精度をどう出すか・・・と言い出した途端に、データをどう集めるかとか、集めたデータをどう加工するかということで頭がいっぱいになります。あれだけAIだーと学んだKerasでの畳み込みのやり方と、畳み込みとは何かいうことよりも、OpenCVに詳しくなったりする。そういうものです。それで良いのです。

で、データだデータだと気づいたときに、データを集めるためにいくらプログラミングしてもダメではないかということにも気づきます。たしかに、プログラミングによってデータのかさ増しをしたりすることはできるのですが、その根本にあるデータは人の中に入っていく、リアルの世界に入っていく、必要によってはIoTも使う、みたいないわゆる業務の世界に入っていかないといけないし、場合によってはAIにいくら時間とお金をかけても無駄では・・・と勘ぐるお客様(とか上司とか)の冷たい視線にも耐えて、耐えて説得できるだけの資料と成果を準備して、それが無理なら潔く諦めるということもしないといけない。

まぁ、大変ですね。というか、そうなるとAIとかじゃないんです。ITで業務システムがー!の世界と何も変わりません。逆に言えば、いつの時代になっても必要なことは変わらないのです。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。