株式を証券取引所に上場する方法

昨日の破産・民事再生・会社更生とうってかわって、今日は株式の上場について整理したいと思います。

株式を証券取引所に上場している会社を「株式公開会社」と言ったりしますが、会社法でいう「公開会社」とは全く違うことに注意しましょう。会社法のそれは、1株でも株式譲渡する際に会社の承認が不要な株式がある会社ということです。株式の売買は必ずしも証券取引所を経由する必要はなく、当事者が直接やる相対取引で良いし、ある程度流動性を高めるなら日本証券業協会が運営しているグリーンシート銘柄の指定を受け、証券会社で継続的に売り気配・買い気配を提示して売買を募るという方法もあります。

それでも、やはり大量の資金を広く一般から募るなら証券取引所への上場に勝る方法はありません。また、特に東証1部・2部への上場となると会社にとってステータスともなるので、上場を目指す経営者は多いと思います。(ITバブルの頃よりは沈静化していると思いますが・・・。)

しかし、逆から言えば、上場とは広く一般から資金を募れるだけの安心感のある会社になるということでもあります。故に、上場に至るための準備や、取引所による審査は大変で、二の足を踏むこともあります。

上場までの一般的な流れ

  1. 事前準備
  2. 上場申請書類の提出
  3. ヒアリング、実地調査(取引所)
  4. 上場委員会での審議(取引所)
  5. 上場決定(取引所)
  6. 募集株式発行の手続、有価証券届出書の提出
  7. 取引所での取引開始

株式を上場するには、まず幹事証券会社を決める必要があります。また監査法人との打ち合わせも必要です。事前準備には経営管理体制や開示体制の整備などがありますが、その準備状況について幹事証券会社の審査があります。後に行われる取引所の審査は当該会社だけでなく、幹事証券会社や監査法人に対しても行われるので、易々と上場申請書類の提出にまで至らないのです。

上場申請書類には、上場申請のための有価証券報告書、経営管理組織の整備・運用、開示制度に関する報告書などがあります。また、幹事証券会社からの推薦書も必要となりますから、この推薦書をもらうためにも事前準備での幹事証券会社による審査は重要です。

上場申請すると取引所による審査が始まります。この審査は上場申請した取引所によって異なりますが、形式基準と実質基準があります。取引所による形式基準の違いは後述します。実質基準は例えば東京証券取引所(東証)では、下記の5項目があります。

  • 企業の継続性及び収益性
  • 企業経営の健全性
  • 企業のコーポレートガバナンス及び内部管理体制の有効性
  • 企業内容等の開示の適正性
  • その他公益、または投資者保護の観点から、証券取引所が必要と認める事項

こうした審査の後、上場決定が出され手続が終わると、晴れて上場となり、取引所での取引が開始されるのです。

証券取引所による違い

日本の株式市場には、東京、大阪、名古屋、札幌、福岡の5つの証券取引所があります。東京、大阪、名古屋には1部と2部の市場があります。また、各証券取引所は新興企業向けの市場も開設しています。

  • マザーズ(東京証券取引所) 174社
  • 新ジャスダック(大阪証券取引所) スタンダード市場931社、グロース市場49社
  • セントレックス(名古屋証券取引所) 25社
  • アンビシャス(札幌証券取引所) 9社
  • Qボード(福岡証券取引所) 10社

※新ジャスダックの上場会社数が極めて多いのは、歴史ある店頭上場銘柄を引き継いでいるためです。うち、グロース市場は赤字上場が可能などマザーズに近い位置付けにあります。

例えば東証には1部、2部、マザーズの3つの市場があるわけですが、上場審査の基準はそれぞれ異なります。特に1部・2部とマザーズには形式基準の違いがあります。

  • 株主数基準 1部・2部:800人以上、マザース:300人以上
  • 流通株式比率 1部・2部:30%以上、マザース:25%以上
  • 流通株式数基準 1部・2部:4000単位以上、マザース:2000単位以上
  • 流通株式時価総額基準 1部・2部:10億円以上、マザーズ:5億円以上
  • 純資産額 1部・2部:10億円以上、マザーズ:基準なし
  • 最近2年間の監査報告書での適正意見 1部・2部:必要、マザーズ:不要(赤字でも上場が可能)

また、上記の上場審査時の基準の他に、一定の値を下回ると上場廃止になってしまう上場廃止時の基準もありますが、これも1部・2部とマザーズでは異なります。
つまり、マザーズは新興企業向けの市場なので、1部・2部と比べると上場時点での規模や流動性に関する基準が緩く、現在よりも将来の成長を優先しています。一方で情報公開については厳しくなっていて、バランスをとっているといえるでしょう。

例えばアメブロなどを運営しているサイバーエージェントはマザーズに上場しましたが、上場時点の決算内容は赤字でした。それでも将来性が期待されて上場を果たし、現在の隆盛につながっています。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。