ComputerはやっぱりAidedするものである

最近、新卒とか中途の採用で面接というか面談というか、話をさせてもらうことがあります。
その際に「ITって何のためにあるんだろう?」というテーマを持ち出したりします。いま学生で就職活動をしている人は、IT業界やSI業界に対するぼやっとしたイメージしかないことが多いようです。選考に入る前段階で面談に来た人には「SI業界でやっていることは調べているけど、具体的なイメージが湧かないので教えてください!」と聞かれることもあります。

そういう質問をされると、私自身が面接されているような気がします。私自身がITやSIについて、どう捉えているのか。つまり、10年くらいのシステムエンジニア生活の中でどう位置付けてきたのか、今後どうなると思っているのかを問われていると思うからです。

私の回答は「SI企業が提供するITサービス(システムの構築や運用)は、顧客企業の業務の効率化によってコスト削減効果をもたらすという側面と、ネット等での新しいビジネスの展開によって売上を伸ばすという側面がある」、つまりコスト削減という守りの戦略と、売上増加という攻めの戦略の両方に資するのであって、それだけ企業経営とITは密接に関連しているのだというものです。

おそらくそれが教科書的回答であって、実際にそうだと思っています。しかし、そんなことを言われても・・・と頭の中に?がいっぱい浮かぶ学生の姿が見えてくるので、実際の仕事の内容としていわゆるウォーターフォール的V字モデルの解説を試みて、その場を切り抜けたりします。

それにしても、私の回答です。「売上増加で攻めの戦略」となると、顧客企業のそのまた先にいる顧客(例えば消費者)のことを考えないといけない事項です。例えばショッピングサイトの構築では、いくら顧客企業のことを考えて作っても仕方のない一面があります。物を買うのは消費者ですから、そこを考えて作ろうということになります。消費者の購入額を増やすことが、顧客企業のためになるわけですから。

では、消費者はなぜ物を買うのか、なぜ購入額を増やそうとするのかという「そもそも論」に思いが至るようになります。おそらく購入という行動のもう少し前段階に働きかけないといけないのだろうと。
ここまで来ると、顧客企業のための仕事でありながら、既に頭の中はその先にいる消費者でいっぱいになっています。あれ?自分の立場は一体何なのだろう、それはSI企業で考えることなのだろうか・・・と思うわけです。とはいえ、ITで何が出来るかを考えて、実現するのが仕事なのだからと、もう少し考えを進めることになります。

マーケティングの世界にはAIDMAという言葉があります。消費者が物の購入に至るには、Attention(注意)→Interest(興味)→Desire(欲望)→Memory(記憶)→Action(購入行動)という順序を経るのだということです。
ショッピングサイトは最低でもActionの場面で使われることを想定していますが、上記の考察で「そもそも論」に至ったのは、Actionだけではないのだろうという予感があったからなのだと思います。

ITは顧客企業と消費者の直接の接点となる購入行動、つまり注文機能を実現することと併せて、消費者が購入行動に至るまでの意思決定まで支援するべきです。うまく支援できれば消費者はより多くの物もしくは高い物を買うという意思に至るかもしれません。支援のやりかたがまずければ、消費者の物を買おうという気持ちを折ってしまうことにもなってしまいます。

出来るだけ多く、出来るだけ高い物の購入に持っていくことが「うまい支援」の判断基準になるのは、構築したシステムは顧客企業に納品されることになるからです。顧客企業の業種次第では、別の判断基準があることでしょう。

コンピュータの使い道として古くからCAD(Computer Aided Design)やCAM(Computer Aided Manufacturing)というのがあります。コンピュータが設計や製造を支援(Aided)するという考え方です。それよりもっと古くはOA(Office Automation)やFA(Factory Automation)といって自動化(Automation)のために使っていました。
コンピュータが普及するに連れて、なんでもかんでも自動化するというよりは、むしろ支援をするという領域が広がってきたのでしょう。自動化が適さない領域に触手を伸ばしてきたというべきかもしれません。

時代が進んで、ITは(コンピュータはもっと広い概念でITと呼ばれるようになりました)購買行動を支援し、さらに購買の意思決定も支援するようになってきています。行動の支援から思考の支援に触手を伸ばしているわけです。さらに支援の範囲は広がり、今後は社会のあり方そのものを支援するように広がっていくのでしょう。

そうなったときに、SI業界の仕事って何なのか。という疑問が改めて生まれますが、それはまた別の機会ということで。

あなたは「ITって何のためにあるんだろう?」という問いに、どう答えますか?

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。