破産・民事再生・会社更生を総まとめ

破産・民事再生・会社更生といった、債務超過等によって会社経営が困難になってしまった際の処理について、見ていこうと思います。
ちっとも、アカルイミライじゃないって?たしかにそうかもしれません。もちろん破産とか民事再生といったことにはなりたくないけれど、いろいろな条件が重なればそうなることもあります。

それぞれ、破産法・民事再生法・会社更生法という法律に則った処理となりますが、そうした法律がなぜ整備されているのかを考えてみてください。それは、どうにもならなくなったり、そうなるおそれのある人や会社を様々な方法で救済し、再び、社会のために役立ってもらおうというためです。また、いったん整理をつけることで、関係者の法的環境を安定させるという目的もあります。たしかに迷惑を被る人も出てくるだろうけれども、そうした方が社会全体としてメリットがあるという判断のもと立法され、運用されているわけです。つまり、もう一度アカルイミライを目指すための方法として、準備されているものなのです。

さて、債務超過等に陥った会社を処理するために準備された方法ですが、大きく分けて整理型と再建型に分かれます。手持ちの財産をすべて処理してしまう整理型は破産が、手持ちの財産を残しながら建て直しを図る再建型は民事再生と会社更生が該当します。
誰に適用されるかで分類する方法もあります。個人でも法人でも問わないのが破産と民事再生、株式会社に限定されるのが会社更生です。

  • 破産(整理型、個人・法人を問わず)
  • 民事再生(再建型、個人・法人を問わず)
  • 会社更生(再建型、株式会社のみ)

(最近では少なくなりましたが)合名会社や合資会社には、無限責任社員がいます。無限責任社員は会社の負債について、個人で全額(無限)の責任を負う形であるため、会社が破産等になった後、無限責任社員自身も個人的に破産等をすることが多くなります。一方、株式会社(特例有限会社を含む)や合同会社、合資会社の有限責任社員(例えば株主)は、そこまでの責任を負いません。しかし、中小企業ではオーナー社長が自ら会社の負債について連帯保証人となっているケースが多く、やはり会社が破産等をした後に、社長自身も個人的に破産等をすることがあります。

破産

破産は整理型の処理方法なので、会社が持っている財産をすべて整理し、債権者に平等に配当します。破産に至るほどなので債権者が満足するだけの財産は当然ないわけですが、それで終わりです。これが基本的な考え方です。

裁判所に対して破産の申し立てを行うと、財産の保全処分が行われます。以後会社が持っている財産は自由に処分できなくなります。
裁判所から破産手続開始決定が出ると破産管財人が選任されます。破産管財人は会社が持つ財産、債権・債務関係を調査・整理し、破産財団に帰属する財産を明確にします。この破産財団の財産が債権者への配当の原資となるわけです。

破産財団の配当を待たずに弁済される債権

破産財団の配当とは別扱いで処理される債権がいくつかあります。まず、会社が債権者に担保を供していた場合、それは別除権として別扱いの処理になります。例えば会社が持っていた土地が担保に供されていた場合、債権者は担保権を実行して破産財団の配当を待つことなく弁済を受けることが出来ます。また、会社に対して債務を負っている債権者は、一定の条件のもとで相殺を行うことが出来ます。相殺は別除権ではありませんが、担保的効力を持つことから認められています。

破産には費用がかかります。裁判所に支払う手数料をはじめ、破産管財人の報酬や換価にかかる費用です。これは財団債権といい、やはり破産財団の配当とは別扱いの処理となっています。財団債権には従業員の直近3ヶ月分の未払い給料が入っています。会社の破産によって従業員の生活がすぐに困窮するような事態を避けるためです。

配当

破産財団に帰属する財産が明確になり、不動産などの金銭以外の財産が換価されると、それが債権者に配当されます。まず、優先的破産債権といわれる税金や財団債権に入らない従業員の給料(前述のとおり直近3ヶ月分は財団債権になるので、それ以前の給料が未払いの場合)などに配当されます。次に一般破産債権への配当が始まるので、一般の債権者はこの時点でまだ配当余力がある場合に限って配当を受けることが出来るわけです。

民事再生

民事再生は破産の原因となる事実の生じるおそれがあるときだけでなく、事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済できないときに使うことができます。破産状態に至らないようにするために、財務内容の悪化を食い止めることが制度趣旨に入っているわけです。

裁判所に民事再生の申し立てを行うと上記のような原因に該当するかチェックが行われます。再生手続開始の決定が出ると、再生債権(破産における破産債権に相当)の調査等の手続に入ります。担保権は別除権として再生債権とは別扱いで処理されるのは破産と同様です。一般優先債権や共益債権(破産における財団債権に相当)も再生債権とは別扱いで随時弁済されます。この手続と並行して、再生債務者(再生対象となっている会社等)は再生計画案を作成して、裁判所に提出します。

民事再生では、この再生計画案が極めて重要です。破産は整理型なので、どういう債務があり、どれだけ財産が残っているかを確認した後は、その残っている財産を配当で分配して終わりです。しかし、民事再生は再建型なのでこれからどうやって再生を果たしていくのかを計画するのです。その計画の中には、債務の返済期間の延長や減額なども入ります。

裁判所は提出された再生計画案を決議にかけます。その決議に参加するのは再生債権者(再生対象になっている会社等の債権者)です。再生債権者は一定の我慢をしてでもその再生計画案を認めて、再生させようと思うか否かが問われるわけです。この決議は、出席した再生債権者の過半数の同意という頭数要件と、債権総額の1/2以上となる再生債権者の同意という総額要件の両方を満たす必要があります。
この決議で再生計画案が可決されると、裁判所はさらに再生計画案の遂行見込みや違法性がないかといったチェックを行い、問題がなければ認可します。認可されれば、あとはその計画に基づいて再生を果たしていくことになります。

こうした手続の間の財産の処分も、計画に基づいた再生も、元の経営者に任されます。この点は民事再生の大きな特徴といえます。

会社更生

会社更生は株式会社だけが対象です。制度趣旨として大企業の再建が対象となっていて、その会社を潰してしまうと多方面に問題が及ぶといったケースを想定しています。最近では日本航空が会社更生手続を行いました。
会社更生の原因や処理の進め方は同じ再建型の手続である民事再生に似ています。以下で違いについて説明していきます。

まず財産の管理権は裁判所の選任した管財人に移ります。民事再生では再生債権者が引き続き財産を管理できますし、再生も自ら行いますが、会社更生では経営陣の退陣が前提となっています。会社更生はあくまで大会社を潰さず再建することが趣旨で、大会社の経営陣を救うことはしないのです。(このことが原因となって、経営者自身の地位を守ることができる民事再生の申し立てばかりが行われ、会社更生が有効活用されなかった。そのため、2008年以降は一定の条件を満たす場合に、それまでの経営者が引き続き財産の管理権を持つDIP型会社更生も認められるようになっている。)

破産や民事再生では別除権となっていた担保権の取り扱いは、会社更生では更生手続に取り込まれています。つまり、更生計画案(民事再生における再生計画案に相当)の中で処理されるのです。

担保権の取り扱いが違うこともあって、更生計画案の決議での可決要件も違います。更生債権者については債権総額の1/2超の同意となっていて、総額要件はありますが、頭数要件はありません。そして、更生担保権者については債権総額の3/4以上の同意という総額要件があります。つまり、更生債権者の組と、更生担保権者の組での2つの可決が必要になっています。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。