少し日が開きましたが、DX推進指標についての理解をさらに深めていきましょう。
前回は、DX推進の仕組みに関するサブクエスチョンを整理しました。
今回は、ITシステム構築の枠組みに関するサブクエスチョンです。
ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築
ITシステム構築の枠組みについてのキークエスチョンは2つだけです。
その1つは、ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築に関して、「ビジョン実現(価値の創出)のためには、既存のITシステムにどのような見直しが必要であるかを認識し、対応策が講じられているか。」というものです。
サブクエスチョンは、DX推進の枠組みのように綺麗なツリー構造にはなっていないのですが、同じ領域のサブクエスチョンとして、ITシステムに求められる要素、IT資産の分析・評価、IT資産の仕分けとプランニングの3つの分野で、それぞれ準備されています。
ITシステムに求められる要素
(データ活用)
データを、リアルタイム等使いたい形で使えるITシステムとなっているか。
(スピード・アジリティ)
環境変化に迅速に対応し、求められるデリバリースピードに対応できるITシステムとなっているか
(全社最適)
部門を超えてデータを活用し、バリューチェーンワイドで顧客視点での価値創出ができるよう、システム間を連携させるなどにより、全社最適を踏まえた IT システムとなっているか
キークエスチョンに関する記事でも書きましたが、DXを実現するためのITシステムの条件として、下記の3つが挙げられています。
- データをリアルタイム等使いたい形で使えるか
- 変化に迅速に対応できるデリバリースピードを実現できるか
- データを、部門を超えて全社最適で活用できるか
この要件に沿って、データ活用とスピード・アジリティについてのサブクエスチョンが準備されています。
環境変化のスピードが加速する中で、それに取り残されない経営を実現するためには、ITシステムを含めた業務プロセスが迅速に追随していく必要があります。また、データ活用の観点からもリアルタイムなデータ提供ができるITシステムが必要とされています。
全体最適に関するサブクエスチョンもあります。
自社内外のバリューチェーンワイドでの組み替え等で、顧客視点の価値を創出することが重要であり、 ITシステムもそれに対応できるようにする必要があるというわけです。
柔軟な機能拡張を可能にするAPIを備えるシステムとなっているか、マイクロサービスアーキテクチャで構築さ れ、柔軟な機能拡張が可能なシステムとなっているかといったことが具体策として挙げられています。
IT資産の分析・評価
(IT資産の分析・評価)
IT資産(クラウドも含む)の現状について、全体像を把握し、分析・評価できてい るか。(視点: アプリケーション単位での利用状況、技術的な陳腐化度合い、サポート体制の継続性等)
自社のIT資産をクラウドも含めて分析・評価することで、全体像を把握できているかという問いです。
この分析・評価に基づいて、次のIT資産の仕分けとプランニングにつなげていきます。
IT資産の仕分けとプランニング
(廃棄)
価値創出への貢献の少ないもの、利用されていないものについて、廃棄(クラウド やサービスの場合は利用停止)できているか。
(競争領域の特定)
データやデジタル技術を活用し、変化に迅速に対応すべき領域を精査の上特定し、それに適したシステム環境を構築できているか。
(非競争領域の特定・共通化)
非競争領域について、標準パッケージや業種ごとの共通プラットフォームを利用し、カスタマイズをやめて標準化したシステムに業務を合わせるなど、トップダウンで機能 圧縮できているか。
(ロードマップ)
IT システム(クラウドを含む)の刷新に向けたロードマップが策定できているか。
初期のDXレポートから問題提起されている、ラン・ザ・ビジネス予算の縮小とバリュー・アップ予算の拡大が、IT資産に関するDX戦略の最大テーマです。
IT資産の分析・評価に基づいて、競争領域のシステムを特定し、非競争領域においてはコモディティ化されたシステムの活用や、業界内での共通化等を行って、コストを削減することが重要です。
ガバナンス・体制
(体制)
ビジョンの実現に向けて、新規に投資すべきもの、削減すべきもの、標準化や共通化等について、全社最適の視点から、部門を超えて横断的に判断・決定できる体制を整えら れているか。
(視点: 顧客視点となっているか、サイロ化していないか、ベンダーとのパートナーシッ プ等)
(人材確保)
ベンダーに丸投げせず、ITシステムの全体設計、システム連携基盤の企画や要求定義を自ら行い、パートナーとして協創できるベンダーを選別できる人材を確保できているか
(事業部門のオーナーシップ)
各事業部門がオーナーシップをもって、DX で実現したい事業企画・業務企画を自ら明確にし、完成責任まで負えているか。
(データ活用の人材連携)
「どんなデータがどこにあるかを分かっている人」と「データを利用する人」が連携できているか。
(プライバシー、データセキュリティ)
DX推進に向け、データを活用した事業展開を支える基盤(プライバシー、データ セキュリティ等に関するルールやITシステム)が全社的な視点で整備されているか。
(IT投資の評価)
ITシステムができたかどうかではなく、ビジネスがうまくいったかどうかで評価する仕組みとなっているか。
ここまでのサブクエスチョンで問われているようなITシステム構築を実現するための、ガバナンス・体制についてのサブクエスチョンが並んでいます。
社内体制や人材(全体的な人材確保だけでなく、パートナーとの共創、データ活用人材についても含む)、ITシステム構築に関するオーナーシップを誰が取るかといった人的側面、プライバシーやデータセキュリティについての全社的な視点での体制整備、さらにIT投資の評価を何によって行うかといった内容です。
DXは顧客価値の創出に向けた取り組みであり、そのための投資の必要性を理解し、何を削減して資金・人材を生み出すかという発想が必要です。
DXのためのITシステムは、作ったら終わりというものではありません。環境変化や顧客・現場の声を聞いて、継続的な改善が必要です。つまり、事業計画・ニーズに基づいた形で進めることが重要であり、IT投資も継続的に行う必要があります。経営とITは一体不可分なDXの時代には、IT投資とビジネス価値が連動しているべきです。
DX推進指標のガイダンスにおいては、環境変化に対応し、新サービスの提供や機能変更を実現するスピードを示す「アジリティ」が、デジタル化する社会においてグローバル競争を勝ち抜くために重要な要素であり、ITシステムを評価する指標としても有効としています。
そのとおりだと思いますし、ITコーディネータプロセスガイドライン(PGL)Ver.4.0においても、企業のデジタル経営成熟度を高めることによって、2つのサイクルを反復的に実行するスピードを上げることができると述べているわけです。
まとめ
ここまで何回かに分けてDX推進指標について検討しました。定性指標のキークエスチョンとサブクエスチョンについて書いてきましたが、定量指標についてのクエスチョンもあります。
ただ、定量指標については、企業の実情によって異なるものです。DX推進指標のガイダンスには、定量指標の例が挙げられているので、参考にすると良いでしょう。
企業がDXに取り組むにあたり、DX推進指標についての議論を行うことは重要です。成熟度の判定と次の目標を設定することができますが、重要なのは、そのための議論を行うことで、自社がDXをどう捉え、どう考えるかを深く考えることができることでしょう。
DX推進を正攻法で進めるための第一歩として、しっかり取り組まれることをおすすめします。