BizDevOpsとPGL4

ITコーディネータ・プロセスガイドライン(PGL)Ver.4.0では、「BizDevOps」というキーワードが何か所かで出てきています。DevOpsについては聞いたことがあるという方が(特にIT系の方は)多いのではないかと思いますが、BizDevOpsについては、まだあまり耳馴染みがないかもしれません。
今回はBizDevOpsについてPGL4を絡めながら、解説します。

BizDevOpsとは何か?

BizDevOpsは、従来のDevOps(開発と運用の統合)の概念をさらに拡張し、ビジネス部門も含めた統合的なアプローチです。その目的は、企業内のITとビジネス部門間の垣根を取り払い、より効率的な顧客価値、ビジネス価値を実現することにあります。

BizDevOpsの主な特徴

BizDevOpsには、下記のような特徴があります。

  1. 学際的なチーム構成
    ビジネス、開発、運用の専門家が一つのチームとして協働します。
  2. エンド・ツー・エンドの責任
    アイデア創出から顧客への納品、その後の運用まで、チームが一貫して担当します。
  3. ローコード環境の活用
    ビジネス部門の従業員も開発プロセスに参加できるよう、ローコード開発環境を導入します。
  4. 継続的な改善とフィードバック
    顧客からのフィードバックを迅速に分析し、製品に反映させる循環を作ります。

PGL4では、経営者、デジタル経営推進者、開発リーダー、運用リーダーといった登場人物が出てきますが、1つのチームとして協働して価値実現を図ることが重要です。

いままでは、ビジネス部門は要件を出したあとはシステムができるのを待つ、開発部門は要件どおりに開発する、運用部門は開発されたシステムを安定的に稼働させる、再びビジネス部門は、稼働したシステムを使って顧客にサービスを提供する・・・といったウォーターフォール的な分業が行われたいました。

BizDevOpsにおいても、それぞれの登場人物がそれぞれの役割を担うことは変わりありませんが、他の登場人物が担う役割についても理解しながら、作業を進めていく必要があります。

例えば、ビジネス部門は開発部門の協力を得ながらローコード開発ができるかもしれませんし、開発部門はビジネス部門が必要とするシステム機能やスケジュールを理解して、適切なリリースタイミングを設計したり、顧客をより理解して要件を詳細化していく必要があります。

また、開発部門と運用部門はDevOpsを実現して、アジャイルなリリースと安定した運用を両立します。運用部門はビジネス部門と連携して顧客からのフィードバックを分析し、日々の運用の改善や開発部門へのフィードバックに活用していきます。

このような各部門の緊密な連携はすぐに実現することはなく、短いサイクルでの活動を反復的に実行することでチームとしての成熟度を上げていくことで徐々に実現していきます。
つまり、BizDevOpsは単なる開発方法論ではなく、顧客価値・ビジネス価値の実現や組織の成長を含めた組織を挙げた取り組みであるということです。

BizDevOpsのメリット

BizDevOpsを実現することで、下記のようなメリットが期待できます。

  1. 開発スピードと納期の向上
  2. ユーザー中心の製品開発
  3. 市場ニーズへの迅速な適応
  4. 部門間のコミュニケーション改善

BizDevOpsの実践ステップ

BizDevOpsは下記のようなステップで実践することができます。

  1. 探索・特定(Explore & Identify)
    市場とユーザーのニーズを理解し、製品アイデアを生み出します。
    PGL4では、P1:変革認識・成長プロセスやP2:デジタル経営戦略プロセスが該当しますが、仮説検証や市場投入後のフィードバックを含めると、P5:価値提供・運用プロセス、P6:提供価値検証プロセスを含めたプロセス全体での取り組みともいえます。
  2. 開発・運用(Develop & Operate)
    アイデアをMVP(最小限の機能を持つ製品)に変換し、継続的に改善します。
    PGL4では、C2:価値実現サイクル全体で取り組みます。P2:デジタル経営戦略プロセスとP3:デジタル経営実行計画プロセスの間での戦略から実行計画(戦術)への変換も重要です。
  3. ビジネス価値の検証(Validate Business Value)
    開発した製品の価値を定量的に測定し、次のサイクルに活かします。
    PGL4では、P6:提供価値検証プロセスで検証を行い、P4:IT開発・導入プロセスやP5:価値提供・運用プロセスにフィードバックしたり、P3:デジタル経営実行計画プロセス、P2:デジタル経営戦略プロセスにもフィードバックしてサイクルを回していきます。CB-3:モニタリング&コントロールも重要になります。

まとめ

BizDevOpsの導入には、組織構造の見直しや文化の変革が必要ですが、その効果は非常に大きいものがあります。DXレポートで述べられている企業のDXの取り組みとも共通点が多いと思います。

VUCAな時代といわれますが、激しい競争環境にある企業にとって、BizDevOpsは競争力を維持・向上させるための重要な戦略となり得るでしょう。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。