DX推進指標:DX推進の仕組みに関するサブクエスチョンを概説

前回の記事では、DX推進指標の定性指標のキークエスチョンについて説明しました。
この記事では、DX推進の仕組みに関するサブクエスチョンについて説明していきます。

サブクエスチョンは、経営者が経営幹部、事業部門、DX 部門、IT 部門等と議論をしながら回答するものとされています。自社が現在どのレベルにいて、 次にどのレベルを目指すのかを認識するとともに、次のレベルに向けて具体的なアクションにつなげる必要があります。

また、定性指標は成熟度を6段階で評価することになっており、なぜその成熟度と判断したかの根拠とエビデンスを合わせて回答することが望ましいとされています。その点は、キークエスチョンと同様です。

サブクエスチョンは、基本的にはキークエスチョンに紐付くものであり、キークエスチョンでの成熟度評価は、配下のサブクエスチョンの成熟度評価と辻褄があっているはずです。さらに、キークエスチョンの成熟度を向上させるために、配下のサブクエスチョンの成熟度をどう向上させていくかという視点で検討すると良いでしょう。

「仕組み」に関するサブクエスチョン

マインドセット、企業文化

マインドセット、企業文化に関するキークエスチョンとして 「挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続できる仕組みが構築できているか。」 が設定されています。
そのサブクエスチョンとして、「体制」、「KPI」、「評価」、「投資意思決定、予算配分」の4つのサブクエスチョンがあります。

(体制)
挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続するのに適した体制が権限委譲を伴って構築できているか。
(KPI)
挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続するのに適したKPIを設定できているか。
(評価)
上記のような KPI に即し、プロジェクト評価や人事評価の仕組みが構築できてい るか
(投資意思決定、予算配分)
上記のような KPI に即した投資意思決定や予算配分の仕組みが構築できているか。

企業内で新たな挑戦を始めるには、そのための体制が必要です。既存の体制のままで新しいことを始めると、以前からの仕事に追われて新しいことに取り組む時間がなくなってしまいがちですし、意思決定のための承認フローも遅くなってしまうことも考えられます。

従来型の組織は、トライ&エラーを前提としていないため、新たな挑戦には向かないということもあります。また、新たな挑戦をする上で失敗することは糧となるので重要ですが、ただ失敗しっぱなしでは良くありません。何を試すために挑戦をして、失敗した結果何が得られたのか、その得られたものを次に活かすためにどうするのか・・・といった失敗から学ぶプロセスを考えておく必要があります。また、何が成功で何が失敗なのかを判断するための評価基準を決めておくことも重要です。

そのようなプロセス、基準を備えた体制を作れば、従来とは異なる、DXに適したKPIを設定することが重要になってきます。従来どおりの「売上」をKPIとして設定してしまうと、従来からの取組の多少のストレッチといった挑戦とは言えない単なる計画になってしまいます。DXの視点では、コミュニティの参加者数やサービスのファンの数、他の人にサービスを薦めるかどうかなどエンゲージメントに関する指標(長期的な売上向上に寄与する視点)を設定するのも良い方法です。
また、人事評価や投資についても、売上ではなく、チャ レンジすること・したことをプラスに評価する仕組みなどが必要でしょう。

(推進・サポート体制)

推進・サポート体制についてのキークエスチョンは 「DX推進がミッションとなっている部署や人員と、その役割が明確になっているか。また、必要な権限は与えられているか。」 です。
そのサブクエスチョンとして、「推進体制」、「外部との連携」があります。

(推進体制)
経営・事業部門・IT部門が目的に向かって相互に協力しながら推進する体制となっているか。
(外部との連携)
自社のリソースのみでなく、外部との連携にも取り組んでいるか。

DXは、DX推進部といった単独の組織だけがやるものではなく、幅広い部門を取り込んで、協力して推進していく必要があることが分かります。DXの時代では、経営とITは一体不可分なものであり、DXは全社的な変革を進めていくものです。ただ「協力する」といっても実効性がないので、きちんと役割を定義し、権限委譲を進めることも重要です。

また、外部リソースの有効活用も重要です。それは、単に専門家をコンサルタントとして活用するとか、ITベンダーにシステム開発を外注したり内製化支援をしてもらういったことだけではなく、行政などが主催する共創イベントを活用するとか、コミュニティ活動に積極的に参加する、産学連携を推進するなど、様々な要素を検討する必要があります。

(人材育成・確保)

人材育成・確保についてのキークエスチョンは 「DX推進に必要な人材の育成・確保に向けた取組が行われているか。」 です。
そのサブクエスチョンとして、「事業部門における人材」、「技術を支える人材」、「人材の融合」の3つがあります。

(事業部門における人材)
事業部門において、顧客や市場、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの実行を担う人材の育成・確保に向けた取組が行われているか。
(技術を支える人材)
デジタル技術やデータ活用に精通した人材の育成・確保に向けた取組が行われているか
(人材の融合)
「技術に精通した人材」と「業務に精通した人材」が融合してDXに取り組む仕組みが整えられているか。

前の記事にも書いたのですが、事業部門と技術部門の双方がお互いの分野についての知識を学び合い、融合していくことがDX推進には重要であるということです。
その上で、技術部門といえども最新のデジタル技術やデータ活用に長けている人ばかりというわけではないので、スキルアップが必要です。

事業への落とし込みに関するサブクエスチョン

事業への落とし込みに関するキークエスチョンは 「DXを通じた顧客視点での価値創出に向け、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化の改革に対して、(現場の抵抗を抑えつつ、)経営者自らがリーダーシップを発揮して取り組んでいるか。」 です。
そのサブクエスチョンとして、「戦略とロードマップ」、「バリューチェーンワイド」、「持続力」の3つがあります。

(戦略とロードマップ)
ビジネスモデルや業務プロセス、働き方等をどのように変革するか、戦略とロードマップが明確になっているか。
(バリューチェーンワイド)
ビジネスモデルの創出、業務プロセスの改革への取組が、部門別の部分最適ではなく、社内外のサプライチェーンやエコシステムを通したバリューチェーンワイドで行われているか
(持続力)
改革の途上で、一定期間、成果が出なかったり、既存の業務とのカニバリが発生することに対して、経営トップが持続的に改革をリードしているか。

ITコーディネータプロセスガイドラインではずっと言われていることですが、変革には「一貫性と経営者のリーダーシップ」が必要です。
戦略とロードマップの一貫性、それを実行・持続する上でも戦略とロードマップとの一貫性が必要となります。戦略から実行までに一貫性があれば、現場が迷いなく取り組むことができます。もちろん、実行の上では様々な軋轢が起こるのですが、それを解決し、一貫性を取り戻すためには経営者のリーダーシップが問われることになります。

ただ、注意が必要なのは、世の中は変化するものなので、当初の戦略を寸分違わず金科玉条のように実行することが是ではないということです。つまり、変化への対応も戦略やロードマップに組み込まれて然るべきですし、何を変化と捉え、その対応を決めるのは経営者のリーダーシップであり、判断軸となるのはビジョンということになるでしょう。

また、事業への落とし込みにおいては、全体最適につながる内容にする必要があります。その「全体」とは個社だけのことではなく、社内外のサプライチェーンやエコシステムを考慮することが求められるのはDXならではと言えるかもしれません。

まとめ

今回はDX推進の仕組みに関するサブクエスチョンを整理しました。冒頭で述べたように、サブクエスチョンの回答は、紐付くキークエスチョンの回答を根拠付けるものとなるはずで、次のアクションを考える上ではキークエスチョンでの目標を実現するためにブレイクダウンされた内容になります。
このように上下の一貫性を持たせることが重要でしょう。

次回は、ITシステム構築の枠組みについてのサブクエスチョンを整理していきます。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。