「希望は突然やってくる」を読んだ

江島健太郎さんの「希望は突然やってくる」を読んだ。このブログでも「ニッポンIT業界絶望論」を取り上げただけに、引き続き取り上げたい。
江島さんは、梅田望夫・英語で読むITトレンドの「顧客志向の製品開発は、正しいけれど、つまらない」という記事が人生の転機であったと打ち明けている。

私は江島さんの実績には及びもつかないけれど、新卒から6年半勤めたSIerを辞める半年くらい前に読んだのが、kuranukiさんの「ディフェンシブな開発 ~ SIビジネスの致命的欠陥」だった。この記事は、はてなブックマークでも反響を呼んでいたし、私のまわりにいた人たちにも小さな反響を巻き起こした。あぁ、そうか、「自分のいるSI業界というのは今をときめくIT業界でござい!」と思っていたけど、違ったんだな…と、気づいたとき、その頃感じていた色々な違和感が一気になだれをうつように納得がいって、いろいろなものが灰色に見え始めてしまった。
そして、追い討ちをかけたのが、梅田望夫さんの「ウェブ進化論」であった。SIerが世の中に貢献をしている部分があるというのは、今でもそう思うが、梅田さんの語るWeb2.0の姿を思うと、なぜかSIerで仕事をしている自分が無力に思えた。SIの仕事は面白くない。その真偽はさておき、当時の自分にはそう思えてしまったのだ。

江島さんには希望が突然やってきたようだが、私にはそうではなかったようだ。いや、もちろん、これからそういうこともあると思うが、セレンディピティの結果、その時、目の前に現れた文章がどうだったかというだけのことだ。いや、kuranukiさんが悪いわけでは決してない。少なくとも、当時の私が、その文章を、そのように受け取るマインドであったから、そうなったのである。

私は別に、SIerの悪口を言おうと思っているのではない。「SI業界について、最近思っていること」に書いたように、すべてが前途有望とは思っていないが、有望な部分はあるし、もっとソフトウェアエンジニアの社会的地位は向上するべきだと思う。ただ、今はちょっと人が多すぎではないかということと、業界の構造がいびつである点に問題があると思っているだけだ。技術を愛する人たちが、もっとのびのびと働けるような業界であれば良いと思っている。
ただ、そのような業界になったときに、私自身がそこにいられるかというと、そうじゃないな…と思ったのである。もちろん、コンピュータのことは好きだ。子供の頃からずっと好きだ。好きなことは好きだが、興味が少し別の方向に向いただけのことだ。そして、興味が別に向き始めたときに、上記のような記事や本に出会ったり、別の勉強を始めたところだったりしたのが、運命の巡りあわせというやつだ。

どちらかといえば、私は、エンタープライズシステムよりも、もっと身近な、ブログとか、コンシューマ向けのWebサイトとか、ケータイとか、そういう方に興味がある。それならば作り出す方も良いけど、使いこなす方でも良いと思ったということもある。Web2.0のメインプレイヤーはGoogleなど新しいサービスとインフラを作り出すネット企業だ。しかし、それを使いこなして新しいビジネスを作り出す側も、メインプレイヤーではないかと気づいた。だから、そっちに回ろうと思った。

そういえば、小飼弾さんが、梅田さんのことを「ギークになれなかった人」と評していた。
そのギークになれなかったという梅田さんを、ず~~~~っと矮小化すると、そこに私がいるのかもしれない。

(追伸)
会社を辞めたとき、私はグループリーダーの役職にいた。愛すべき後輩たちがそのメンバーであった。
もう、私のことなど忘れかけているメンバーもいるかもしれないが、たとえ私がSIerを悪口を言ったとしても、憎んでそういうことを言っているわけではないということを、分かっていて欲しい。(ちょっと気掛かりだったのだ。)

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。