その本、その技術にゾクゾクしたか?

Facebookには書いているのですが、いま実は本を書いているのです。
ある人から出版社さんをご紹介いただいて、技術書なんですが出版社の求めているネタの中で書けそうなものがあったので、それで。
一応、目次案を作って、それが出版社さんの社内稟議に通ったとのことで、執筆を始めてくださいとのことで。

本はいつか出したいと念願していたことなので、とてもありがたいことなのですが、実際に書き始めてみると、いろいろと考えることがあります。
さすがに、嘘は書いてはいけないとか、書くことについて自分は本当に理解しているのだろうかとか。
それは、出版まで至るプロセスにおいても、ブログとは違って私以外の方のご尽力と出版社の投資があるわけですし、買ってくださる方はお金を払っていただかないといけない。

ブログを書くにしても嘘は書かない、真実を確認する、自分がきちんと理解してから書くということに配慮しているつもりですが、紙の本となると、やはりなおさら、気を遣うわけです。
そんなこともあって、題材に関する本を買い集め、技術書なので、その技術についても実際に動かして確認するということを続けております。

そういうことをやり始めて、思い出した本が、渡部昇一氏の「知的生活の方法」なのです。
この本が初版で出たのが、なんと昭和51年4月。私が生まれる(昭和54年)前。手元に、昭和59年1月に出た第36刷がありますが、これとて古本で、たぶん100円で買ったもの。
電子書籍のKindle版が2012(平成24)年に出ています。かれこれ40年近い歴史を持つ名著といえるでしょう。

なぜこの本を思い出したかというと、最初のページから「己に対して忠実なれ」とある。これはシェイクスピアの「ハムレット」にある教訓なのですが、これを「分からないことは分からない」と解くのですね。
若き日の渡部昇一氏は捕物帖は分かっても漱石は分からない、(氏は英語学者ですが)英文の推理小説やポルノはゾクゾクしても本当の英文小説にはゾクゾクしないと言い切り、それでもいずれ漱石が分かるようになり、本物の英文小説にもゾクゾクする日が来たという。
そこまで来ないと、本当に分かったとは言ってはいけないのだというわけです。

翻って私はどうであったか。
私が読むのはもっぱら技術書で、技術がゾクゾクするほど分かったかという話になるわけで、そういう経験をした最初は10代の頃にJavaが分かった時だったと思います。その後が、20代になって就職した後のオブジェクト指向。あとは、せいぜいNagiosかな。
その後はというと、正直、いろいろな技術を使って仕事をしてきたけれど、本当にゾクゾク分かったかというと首をかしげざるを得ない。恥ずかしながら。

でも、今回、本を書くとなって、その領域で既に出ている本を買いまくって、読みまくっています。もちろん、この時代なのでネットも調べまくって。もちろん、実際に動かして確認もして。

そうして、集めた文献をじっくり読んで、Evernoteにも要約をまとめて・・・としていると、「あ、分かった!」という瞬間、ゾクゾク感がちょっと来ました。これなら、なんとかなるんじゃないかって。

「知的生活の方法」には、こんなことも書いてあります。繰り返して読むこと、いつでも読みたいときに取り出して読める、自分だけの図書館(ライブラリー)を作ることの重要さ。
そのために書斎を含めた自宅をどう作れば良いかも書いてあるし、時間の使い方、お酒の飲み方やツマミの選び方まで書いてあります!
お酒やツマミについては、ビールよりワインだとか、ツマミはチーズが良いとかで、正直、氏の提案には従っていないのですが・・・(笑)。

今まで繰り返して読んで、自分のライブラリーに入れておきたい技術書についても考えてみました。
やっぱり、自分にとってはオブジェクト指向の本ですね。
ということで、不届きながら、いつぞやに処分してしまっていたので、Amazonの中古本で買い集めることにしました。。。

この本の翻訳者である依田智夫さんとは、10年以上前にお仕事でご一緒させていただいたことがあります。当時、社会人3年目くらいであった私が、直接お話しさせていただくような方ではなかったのですが、直接お話しさせていただいたり、本を頂戴したり、幸せなことでした。

当時、依田さんは自分のコンサルティング会社を立ち上げられていて、その乃木坂の事務所に何度か伺ったのですが、少人数で会社を運営していながら執筆、講演やコンサルティングといった活動をされていたのを目の当たりにして、これぞ自分の将来の理想像だと思ったのでした。
まだまだ及ばないながら、ようやく自分の小さな会社(アルティザンエッジ)を作り、なんとか執筆の道が開けてきたので、時間の流れを感じます。

「知的生活の方法」にも、渡部昇一氏が憧れを抱いた先生の描写があり、そうやって、直接の師匠と弟子という関係ではないながらも、受け継がれていくものがあるのだなと勝手に感じております。。。

この本で、オブジェクト指向というものがちゃんと分かった気がします。
読んだ当時も決して新しい本ではなかったのですけどね。良い本は時間が経っても良い本だということでしょうか。

とか言っても、ちゃんと書いて、ちゃんと本が出ないと仕方ないので、頑張ります。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。