フリーのSEってどうなのか

私の仕事はSEである。今は、派遣会社に登録して、ある現場で働いている。今の現場を見ると、個人事業主のSE(PG)、派遣のSE(PG)、要するにフリーのエンジニアが、それなりの割合でいるようだ。聞いた話によると、プロジェクトの多くのメンバーが、フリーということもあるそうだ。
私が今の働き方を始めて思ったのは、「あぁ、楽な稼業だな」ということ。それまでは、正社員として、会社の看板を背負って、配下にはメンバーを持って、リーダーもしくはサブリーダーとして、顧客と対峙して仕事をしてきた。だから、会社の看板も、配下のメンバーもなく、単なる1メンバーとして働くことは、楽でしかない。それでいて、収入は正社員の頃より良いのだから、申し分ない。
しかし、そういう働き方を始めて、そろそろ1年が経とうとする今、少しばかりの危惧の念も浮かび上がっている。「このままで良いのだろうか」と。

その危惧というのは、具体的には、

  • その働き方で例えば60歳(今は28歳)くらいまでやっていけるのか?
  • 仮にやっていけたとしても、仕事の内容が今と同じようなことで良いのか?

ということだ。
私も、以前はプロジェクトのリーダークラスの立場にいたので、協力会社の面接に出ることが多かった。そこで、経歴書を見て、その人と合って、40代を超えてくるような人だったりすると、「ちょっとなぁ…」と思うことが多かった。いや、それはきっと私の偏見なのだろう。しかし、特にWeb系のような若いメンバーが多いプロジェクトをやっていたこともあって、周囲にいる40代といえば、だいたい自分より格上のリーダーだったり、部長だったりしたものだから、つい、そう思ってしまうのだった。
では、逆に私がそういう40代になったとしたならば、そういう見られ方に自分自身はどう思うのか。

先ほど挙げた危惧は、年齢的な話と、仕事内容の話であったが、これを単に並列で並べたのは問題がある。同じ内容の仕事のまま、年齢だけが上がっていくというのは、そりゃ成長がないのである。本当に同じ内容の仕事しか出来ないのならば、加齢で体力が落ちる分だけ、若いときより仕事が出来なくなっているはずだ。だから、仕事内容は変わっていく方向に向かわざるを得ない。
では、どういう風に変わっていくのか。ざっと挙げれば、以下のようなものだ。

  • リーダー的な仕事がこなせる人材になる。
  • より特化した分野で高度な技術を持っている。(もちろん、その分野に市場価値がある)
  • 経営者になっている。

最後の「経営者」というやつは、フリーという話からズレているし、ややもすると単なる偽装請負のブローカーに成り下がっているかもしれないので置いておこう。
前の2つを見てみると、これが図らずも、ゼネラリストとスペシャリストに二分してしまった。
しかし、フリーのエンジニアは、そういう人材になれるのだろうか。

まず、リーダー的なゼネラリストでいえば、ふつう、リーダー格の人材というのは、正社員が務めるところで、フリーにそういう役割が回ってくることが少ないのではないだろうか。特にリーダーなどという仕事は経験が大切なので、そういう経験が少なければ、必然的に(本当の)リーダーにはなれない。可能性があるとすれば、フリーの立場ではあるが、1つの会社とずっと契約することで、その会社の上層部に「リーダーが出来る人材」と認識してもらうことだ。契約以外は正社員的に振舞うことになるのではないか。

次にスペシャリストを考えてみる。スペシャリストはとにかくスキル(やれば出来る能力)が必要だが、それにも増してキャリア(実際に出来た経験)が必要である。もともと、スキルとキャリアのある人ならば、フリーでもやっていきやすい領域と思う。しかし、スキルは勉強すればなんとかなるとしても、キャリアをこれから作っていかないといけないという人がフリーだった場合、そういう経験をする場が提供されることがあるのだろうか。結局のところ、スペシャリストも、1つの会社とずっと契約することで、その会社の上層部に「(長期契約を前提に)スペシャリストとして育てていきたい人材」と認識してもらうことになるのであって、契約以外は正社員的に振舞うことになるのではないか。いや、だったら、正社員になっちゃえよ…と、思わないでもない。

なぜ、こういう結論になるのか。いくつかの理由がある。

  • SI業界の仕事というのは、ほとんどが多くのメンバーがチームを組んでやる仕事だ。だからこそ、チームにフリーとして紛れ込みやすいのではあるが、チームの中核を担おうとすれば、フリーが個人で仕事をやっていく感覚とは相容れないのではないか。
  • そもそもフリーの能力担保は、その人が個人で請け負うしかない。だから、どうしても長期間同じ会社と付き合うことで、「力を見てもらう」しかない。逆に、正社員であれば、顧客から見た能力担保は会社対会社(その会社に所属するある正社員がダメでも、代替要員を出してもらえばよいと考えることが出来る。)で見られる。だから、その正社員個人としては、顧客との間では意外に自由である。(もちろん、その正社員が所属している会社との間では、個人として能力担保しなければならない。ただ、正社員というのは、まだ育てようという意志が会社に働くので、能力担保の要求もシビアではない。)

ここまでをまとめると、SI業界にいる以上は、フリーより正社員の方が良いということになる。フリーでやっていけるのは、既に正社員として十分のスキルとキャリアを積んでいる人だけ…か。

このネタについては、私自身の今後の身の振り方そのものでもあるので、引き続き、考えていく。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。