AIやIoTを何に、どのように導入するのか

AIやIoTに関するセミナーや研修講師で、あちこちから呼んでいただいています。一方で、自分でも顧問や実際に開発するエンジニアとして、そうしたお仕事をいただいています。

AIやIoTを教える際は、その相手が誰かにもよりますが、まずは技術について話をします。受講者がエンジニアの場合は実習を多く入れますし、そうでない時は動画や実例を入れながら、でも根本の技術についてもできるだけ分かりやすくお話ししています。

何に導入するのか

ただ、技術だけで終わってもいけないと思います。単純な技術的興味ならそれだけでも良いのですが、AIやIoTは興味のフェーズではなく、実際に活用するフェーズに入っているので、どんな分野にどのような方法で導入して、実際に効果を出していくのかを考えなければなりません。研修によっては、その辺に特化した内容で進めることもあります。

私自身は基本的にはコンサルタント(顧問)、エンジニアという形で、導入に携わります。最近は、北九州でIoTの関連で自分たちで作ったプロダクト、サービスを売っていくということも視野に入ってはいますが…。

コンサルタントや(外部の)エンジニアという形でなら、どこかの会社からお仕事を依頼されて入るので、その会社にはAIやIoTに対するなんらかのニーズがあります。場合によっては、「AI入れた」って言いたいだけというのも無いではありません。あと、世の中がAIやIoTで騒がしいから、うちの会社、うちの業界でも…というように、実に「ふわっ」としたテーマでご相談いただくこともあります。

ただ、いずれにせよ、いま私がご相談いただいているのは、

  • 実際にビジネスを展開している現場があって、そこにAIやIoTを導入したい
  • AIやIoTでこんなことができるなら、それをベースに新しいビジネスやサービスを起こしたい

の2つに分けることができます。仮に、前者を生産性向上型、後者を新規ビジネス創出型と呼びましょうか。

生産性向上型

生産性向上型は最も多いケースです。労働集約型のビジネスで人手がかかりすぎているから、そこにAIやIoTを入れたいとか、一部のベテラン従業員の神業のような仕事に頼りすぎているから、その一部でも経験をAIに学ばせて代替したいとか、そういう話です。

この場合、そうしたビジネスの現場にガツっと入れて問題解決するようなAI(およびIoT)の技術、製品といったものは存在しませんから(銀の弾丸はない)、地道に業務フローを追いかけていく必要があります。ある種類のデータを作り出すアルゴリズムがあって、そこにAIを入れることで同業の中での競争力を得たいということもありますが、その場合でもデータを作り出すアルゴリズムをまず地道に追いかけないといけません。

その上で、フローやアルゴリズムの中のどこにAI(というかコグニティブや機械学習でのリコメンデーションなど)を入れる余地があるかを検討するわけです。まず、適用できるコグニティブのサービスや機械学習のアルゴリズムがあるかを考える必要がありますし、さらに独自のモデルを作る場合はそのための訓練データがあるかを確認します。

新規ビジネス創出型

新規ビジネス創出型は、まず比較的容易に実装できそうなコグニティブのサービスや、機械学習のアルゴリズムがあって、そこにその企業がもともと持っていたり、容易に入手できるデータや、そもそもの業界の知見などを組み合わせて、新しいサービスやビジネスを創り出していきます。

この場合は、ある意味でAIありきなので、その「ありき」になっているAIが空想上のものではなく、現実に実装できるものなら、比較的簡単に実現できるわけです。持っているデータで必要な精度が出るのか?という調査は必要ですが。あと、新規ビジネスなので市場性を確認したり、サービスの体系を設計したりといった、AIやIoTが直接関係しない、ビジネスそのものの検討も必要です。

使えば育つシステムが設計できるか

どちらの型にせよ、AIを入れる以上は「使えば育つ」システムになるのかが重要なポイントでしょう。最も有用なデータは本番運用の後に入手できます。それを使って、機械学習のプロセスが継続して回っていくのか、また、育っていることを評価する方法を確立できるのかといったことを考えます。

AIやIoTの導入は純粋な技術だけではうまくいかない

私は上記のようなことを考えながら仕事を進めています。ここに書いたのは技術的なことではありません。実際のビジネスや業務といったものを見つめながら、適切なAIやIoTのポイントはどこかを探るという、いわゆる上流の話ですね。

AIやIoTというと、とかく技術の話に走りがちですが、こういった視点も重要です。結局、いつになってもITというのはそういうものです。ただ、「ITで何ができるか」という今までの常識と、そこにAIやIoTが入るとできることには違いがあるので、その辺をきちんと押さえた上で議論を進める必要があります。

地に足のついた議論を行うためには、技術をきちんと知ること。でも、技術だけでは導入はうまくいかない。そのバランスがAIやIoTの導入についても必要なのだと思います。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。