「なりたい」と「したい」

いろいろな場面で教育について携わったり、雑談的にお話しすることがあります。
まぁ、一介のITエンジニアであり、ITコーディネータである私が大上段に「教育」と振りかぶることもないのですが・・・。
あくまで、自分のキャリアについての考え方をお話しするというか、その程度のことです。
(研修講師としてのお仕事はたくさんやっていますが、それは技術的なレクチャーとかハンズオンなので「教育」とは違うかなと思います。)

好きこそものの上手なれ

この間、北九州市内の小学校に伺って打ち合わせをしました。小学生にAIを教えるという特別講義をやることになって、それについてのものです。
小学生にこの本(技術書)ちょっと早いなと思いつつ、著書を持って行きました。もしかしたら、特別講義を受けて、もっと知りたいと思う人が出てくるかもしれないから、図書館の隅にでも置いていただいたら良いなと思って。

打ち合わせした小学校の先生は快く著書を受け取ってくださり、サインまで求められました。
著書にサインを書くのは久しぶりだなぁと思いつつ、自分の名前の脇に添えたのは「好きこそものの上手なれ」でした。

今までは「AIとIoTで日本を変えよう!」とか書いてたんですけどね。社会人の方が相手ならそれでも良いと思うのですが、小学生にそれを言うのはちょっと違うなと。社会人や大学生、専門学校生などで私の著書を買っていただいた方なら、AIとIoTと特化して良いと思うのですが、小学生の場合はIT関係の仕事に就くとは限らないので、もっと広く受けとめられる言葉の方が良いだろうと思ったわけです

ちなみに、この言葉は、Human Storyというインタビューメディアに出たときのも入れてもらいました。

「なりたい」

「ITエンジニアになりたい」とか「社長になりたい」という人がいます。
私の仕事の様子を見て「井上さんのような仕事をしたい」という人もいます。
後者については、おそらく私がやっている仕事というより、自営業やフリーランス的な仕事との関わり方について言ってくれていることが多いだろうから、「社長になりたい」と同じ意味でしょう。

ITエンジニアになったら、高収入が得られそうとか、食いっぱぐれしなさそうとか、そういう理由で「なりたい」(もしくは親が「ならせたい」)ということも多いような気がします。
世の中にプログラミングスクールが溢れていますが、大概はそういう理由でITエンジニアになることを薦めています。

「したい」

ITエンジニアになりたいというのは、何故でしょうね。ITを使って何かを作りたいのなら、ITエンジニアになりたいじゃなくて、「○○を作りたい」と言うでしょう。
会社を興して、人を集めて、何か大掛かりなことがしたい人なら、やっぱり「社長になりたい」じゃなくて「○○をしたい」と言うでしょう。

「したい」というのは、大義名分があって旗を掲げていることなのです。だから、その旗のもとに人が集まるということがあります。
A社長が「○○をしたい」という明確な旗を掲げているから、それを一緒にやろうといって社員になる人はいるでしょう。
だけど、「社長になりたい」と言っていたBさんが社長になったから、私は社員になろうという奇特な人はいないのです。

「社長になりたかったんです」

そんなことを考えているときに、一人で調理から接客までやっているレストランに行きました(今は暇な時間だから一人なのだそうです)。
大きなホテルで修行してから独立したというので、「なぜ、独立しようと思ったのですか?」と聞いたら、「社長になりたかったんです」という答えでした。さらに興味が湧いて「それはどういうこと?」と質問しました。

その答えは、「自分の思うような店をやりたかった」ということでした。
やはりそうか。社長になりたいと言っても、真の理由がそれであれば「なりたい」じゃなくて「したい」方の人かもしれない。

(あらためて)「好きこそものの上手なれ」

こうしたことを書いてくると「なりたい」じゃなくて「したい」を探すべし!みたいなご託宣につながりそうなのですが、さにあらず。

というのは、私自身を振り返ると、結構「なりたい」を言ってきた人じゃないかと思うのです。
「社長になりたい」と思ったことは実のところないのですが、「司法書士や行政書士になりたい」とか「コンサルタントになりたい」とは思っていました。その心は「自分の知識(や技術)を活かして、直接的に人の助けになるような仕事をしたい」ということで、その知識や技術というのが自分の場合はコンピュータ(IT)だった。

コンピュータが好きだからこそ、それが自分の「したい」にうまく結びついて仕事になって、今まで生きてこられた。有り体に言えば、コンピュータに触っててお金が儲かるならそれに越したことはないというだけかもしれません(身も蓋もない)。「好きこそものの上手なれ」とは本当によく言ったものです。

だから、先に書いたような旗を掲げる「したい」とはちょっと違っていて、「したい」と「なりたい」のちょうど真ん中くらいで折り合いをつけているような気もします。

と、ここまで書いたときに思いだしたのは、アイドル時代の後藤真希さんが言っていたこんな言葉。(彼女がライブMCで言っていたのを聞いただけなのでかなり意訳。ただ、大昔の自分のブログに、こんなことを言っていたと記録があったのです。)

私は何か目標を掲げるようなことが出来るタイプではない。ただ、みんなの前で歌を歌っていることが好きだから、それを続けられるようにしたい。

そういうことなのかもしれません。(私、Hello! Projectを追っかけていて、それをブログに書いている時代があったのです。)

だから、起業家とかベンチャーという柄じゃないのだな・・・と思うわけですが。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。