デジタルガバナンス・コード3.0が公開されました

経済産業省が2024年9月19日に、デジタルガバナンス・コード3.0を公開しました。
今回からは、「DX経営による企業価値向上に向けて」という副題が付くようになり、この文書やDX認定等の施策の意図が明確になりました。

このブログでは、デジタルガバナンス・コード2.0や、それに基づくDX推進指標についてシリーズで整理しています。

デジアルガバナンス・コード2.0と3.0に違いを中心に、整理したいと思います。

デジタルガバナンス・コード3.0と関連文書

デジタルガバナンス・コード3.0は、経済産業省のサイトで公開されています。

ここでは、合わせて「改訂のポイント」も公開されているので、確認すると良いでしょう。

また、デジタルガバナンス・コードを元にして、「中堅・中小企業向けデジタルガバナンス・コード実践の手引き」や、「DX推進指標」も公開しているのですが、これらは今日時点では3.0に合わせたバージョンアップは行われていないようです。

これから行われる可能性があるので、注意が必要ですし、特にDX推進指標はDX認定取得に向けたファーストステップに位置づけられており、DX認定条件が記載されたデジタルガバナンス・コードに概ね準拠しているので、更新される可能性が高いと思います。

改訂の概要

「柱立て」の見直し

(出典)デジタルガバナンス・コード3.0 改訂のポイント P3

2.0では、「ビジョン・ビジネスモデル」、「戦略」、「成果と重要な成果指標」、「ガバナンスシステム」の4つの柱立て(「戦略」には2つのサブ項目がある)だったものが、3.0では「経営ビジョン・ビジネスモデルの策定」、「DX戦略の策定」、「DX戦略の推進」、「成果指標の設定・DX戦略の見直し」、「ステークホルダーとの対話」の5つの柱立て(DX戦略の推進には3つのサブ項目がある)に変わっています。

このうち「DX戦略の推進」は3つのサブ項目があるだけで、それ自体に「柱となる考え方」やDX認定の「認定基準」は設けられていません。

「視点」の追加

2.0にはなかったものとして「視点」が追加されています。5つの柱立てを関連付けるものとして定義されており、下記の3つの視点があります。

  1. 経営ビジョンとDX戦略の連動
  2. As Is-To Beギャップの定量把握・見直し
  3. 企業文化への定着
(出典)デジタルガバナンス・コード3.0 P4

この図を見ると、3つの「視点」の使い方がよく分かります。「経営ビジョン・ビジネスモデル」と「DX戦略」は連動させる必要があること(視点1)、策定したDX戦略を推進する中で成果指標を設定してAs is-To beギャップの定量把握を行い、DX戦略の見直しを行うこと(視点2)、こうした取り組みは企業文化として定着させ(視点3)、ステークホルダーと対話していくことが必要であると分かります。それぞれの柱立てが有機的につながっているわけです。

DX銘柄・DXセレクションの評価・選定基準の明確化

2.0では、それぞれの柱立てに「柱となる考え方」と「認定基準」が設けられており、これがDX認定の認定基準であることが明確にされていました。3.0では、それを踏襲した上で、柱立てごとに記載されている「望ましい方向性」がDX銘柄・DXセレクションの評価・選定基準であることを明記しています。(また、2.0にあった「取組例」が「望ましい方向性」に統合されています。)

何が変わったか

2.0の柱立ての私なりの整理として、以前の記事には下図を作成して説明しました。

3.0でも同様に作ってみたのが、これです。

何が変わっているかは、改訂のポイントに挙げたとおりなのですが、私なりの整理では、下記のようなことがいえると思っています。

「DX戦略」という言葉の明示

ビジネスモデルを実現する方策を、2.0では「デジタル技術を活用する戦略」していたところ、3.0では「DX戦略」に置き換わっています。言葉としてシンプルになりましたし、2.0がどちらかというと技術に偏重した言葉になっていたところから視野が広がったように感じます。
その上で、新たに加わった「視点」として「経営ビジョンとDX戦略の連動」が掲げられており、その説明で「経営ビジョンと表裏一体で、その実現を支える」とあるように、経営戦略とDX戦略の一体化の方向性が見えます。

「DX戦略の見直し」が柱立てに

2.0では「ガバナンスシステム」の要素として挙げられていた「DX戦略の見直し」が、成果指標の評価と一体となった上で柱立ての1つになりました。
デジタル技術はどんどん進化していくので、DX戦略の達成状況や自社のITシステムの状況などを鑑みながら、DX戦略は定期的に見直していく必要があることが、よりハッキリしました。

このことは、サイクル型のプロセスで社会や技術の変化を反復的に戦略に取り込んでいく、ITコーディネータ・プロセスガイドライン(PGL)4.0の趣旨と親和性が高いものになったと思います。

「サイバーセキュリティ」も柱立てに

2.0ではやはり「ガバナンスシステム」の要素であった「サイバーセキュリティ」が、「ITシステム・サイバーセキュリティ」という形で柱立ての1つになっています。
サイバーセキュリティは「事業実施の前提」として説明されており、DX戦略推進より一段上の重要性があるものと位置づけられています。

これも、「セキュリティ」をデジタル経営共通基盤の1つとして取り上げた、PGL4.0の趣旨と一致しています。

「組織づくり」と「デジタル人材の育成・確保」の重要性を強調

2.0と3.0で語られていることの趣旨はそれほど変わらないと思いますが、「組織づくり」と「デジタル人材の育成・確保」が分離され、それぞれが1つの柱立てとなっています。
改訂のポイントとして、「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」との整合が掲げられているように、DX実現に向けた人材や組織の重要性を強調し、人的資本経営の実現につながるものにしたということでしょう。

まとめ

デジタルガバナンス・コードの2.0と3.0で抜本的な違いはなく、大きな方向性は踏襲していると感じます。ただ、ここまでに整理したように強弱を付ける部分が変わっていたり、「視点」が加わることでそれぞれの柱立てが有機的につながるようになったことは変化といえるでしょう。

2.0にあった「ビジネスとITシステムを一体的に捉え」という言葉が、3.0にはなくなっています。既に当たり前・・・と言うことかもしれませんが、経営とITは一体不可分という認識がDXを考えるには必須なので、少し残念に思いました。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。