SI業界の将来は暗いかもしれないが業務システムエンジニアの将来が暗いわけではない

成熟期に入ったSI業界と、業界を縮小させる3つの波

SI業界の将来が暗いという話は、あちこちで盛んに言われています。私自身も、その意見には賛同するところです。SI業界は業界そのものが生まれた時から業界丸ごとが右肩上がりの成長を続けてきました。しかし、その成長軌道は止まり、業界は成熟期に入っています。成熟した業界では、大手がシェア拡大のために中小のシェアを奪い、大手数社の寡占が出来上がるというのがセオリーで、SI業界もその方向に向かっているというのがマクロな見方だと思います。

さらに、昨今のSI業界は、オフショア、クラウド、内製化という3つの波が押し寄せています。この波は、セオリーを狂わせる上に、基本的には業界を縮小させる波なのです。ゆえに、SI業界の見通しは暗いという意見が大勢を占めることになります。

業務システムエンジニアの将来も暗いのか?

たしかに業界の見通しは暗いとして、しかし、そこで働いているエンジニア、特に業務システムのエンジニアの将来も暗いといって良いのでしょうか。私は、それは違うと思っています。ただ、いまSI業界に所属しているすべてのエンジニアの将来が明るいかといわれれば、それも違うというのが私の意見です。

業務システムの特性を考えてみたいと思います。

  1. 業務システムは、企業の業績を左右する
  2. 業務システムは、業務の中核にあるほど長時間使われる
  3. 業務システムは、改修しながら長期間使われる

業務システムは、企業の業績を左右する

1つめから順に見ていきます。まず、業務システムは企業の戦略・戦術と直結することが多くなっています。もともとコンピュータが企業に取り込まれ始めた頃は事務処理の合理化が目標のすべてでした。しかし、今、それだけで満足する経営者はいません。合理化によるコスト圧縮はもちろん、売上を伸ばすというプラスの目標も入ってくるようになっています。逆に言えば、プラスの目標が入っていない業務システムの開発で満足しているようではダメだということです。

業務システムは、業務の中核にあるほど長時間使われる

また、実際に業務システムを使用するユーザ(主に企業の従業員)の立場で考えると、それが業務の中核にあるほど、長時間使われるということがあります。それこそ、出勤してから退社するまで、ずっと使っていることもあります。1日8時間(以上のことももちろんありますが)使われるソフトウェアなんて、なかなかありません。しかも、いざシステムが導入されたら使うことから逃げられないのです。だからこそ、ユーザインタフェースには細心の注意を払いたいものです。ここでいうユーザインタフェースは単に画面の構成といった見た目だけを言っているのではありません。業務システムの場合、ユーザの目的は業務システムを使うことではなくて業務を進めることですから、ユーザの業務上の思考や行動に逆らわない、出来ることならそれを支援するようなユーザインタフェースでなければなりません。

業務システムは、改修しながら長期間使われる

さらに、一度作った業務システムが5年、10年と使われることは稀ではありません。しかも、最初につくったものがずっと使われるのではなく、都度改修が入ります。あまり望ましいことではありませんが、改修の度に違うエンジニアが対応するということもあります。だとすれば、システムの内部構造がいかに綺麗かという価値観が生まれます。まずは設計の明快さや、アーキテクチャが整然として、かつ効率的であるかということが挙げられます。また、ソースの読みやすさ、変数名やデータベースのテーブル名、フィールド名の付け方はとても重要です。さらに、ソース管理やテスト管理がきちんと行われているかにも気を払わなければなりません。

コンサルティングマインドのあるエンジニア

さて、このように考えてみると、業務システムエンジニアが考えなければならないことというのは実に多いことが分かります。こうしたことをきちんと実践できるエンジニアであるならば、その将来が暗いと言えるでしょうか。

このエンジニアはスーパーマンかもしれません。ソフトウェアエンジニアリングがきちんと出来ていて、かつコンサルティングの素養も身についているのですから。しかし、業務システムエンジニアはそこを目指していかなければならないと考えます。
コンサルタントはコンサルタント、エンジニアはエンジニアという分業も考えられなくはありません。しかし、業務システムにおいては経営と開発は有機的に結びついていて、しかもスピードが求められますから、やはり両方を目指していくべきです。

少数精鋭化を勝ち残れ

冒頭に成熟した業界では大手が寡占するのがセオリーと書きました。これは、エンジニア個人の視点で見れば、スーパーマンが仕事を寡占していくということです。ソフトウェアエンジニアの生産性は出来る人とそうでない人で10倍以上の差があると言われています。スーパーマンが1人いれば、10人の仕事が奪われるわけですから、少数精鋭化が進んでいくことでしょう。そうなったとき、業界を寡占する「大手」は単に人が多い企業というわけではありませんね。

私自身、いまスーパーマンであるとは思っていません。足りないところがたくさんあります。しかし、そこを目指し、実際の仕事の中でもそういう視点で考える努力をするという姿勢は持ち続けたいと思っています。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。