国民投票法の可決について

今日、参議院で国民投票法が可決されました。憲法改正に向け、立ち塞がっていた大きな壁を一つ崩したといえます。

憲法改正は、各議院の総議員のそれぞれ3分の2の賛成で発議→国民投票の過半数の賛成で成立→天皇が公布で実現します。そのうち、国民投票のやり方について、明確に決まっていなかったのですが、それが国民投票法で決まったということです。

今回、可決した国民投票法の特徴は以下のとおりです。

  • 投票の対象は憲法改正に限定。
  • 投票権者は18歳以上。但し、選挙権が18歳に引き下げられるまでは20歳以上。
  • 有効投票数の過半数の賛成で成立。
  • 公布後3年間は憲法改正案を審査、提出しない。
  • 憲法改正案は関連する項目ごとに区分して発議。

ポイントは、成立要件が「何に対する過半数か」という点。それが有効投票数になったのですが、私見としては、それでは少なすぎるという印象を持ちます。つまり、投票率が50%なら、その半分=投票権者の25%で成立してしまうのです。

国会の発議は「『総議員数』の3分の2」であることに注目してください。普通の法律の成立は「『出席議員数』の過半数」ですが、分母をどう取るかが違うのです。それだけ、変更し辛い憲法(硬性憲法)にわざわざしているのです。

それを、国民投票については憲法で決められていないからといって、変更し易く有効投票数(投票数ではなく有効投票数ですから、分母はさらに小さくなります)で見てしまうというのは、いかがなものかと思うわけです。

ここで重要なことは、「法律は国民を縛るもの」であり、「憲法は権力を縛るもの」という、大きな違いがあるということです。憲法はいくつかの義務を国民に課していますが、ほとんどは権力を持っている者を規制する取り決めです。日本国憲法は人権編と統治編に分けられます。

そのうち人権編に注目すれば、基本的人権は自由権、社会権、参政権にさらに分けられます。自由権は「国家からの自由」、社会権は「国家による自由」、参政権は「国家に対する自由」を謳っています。すべて「国家と国民(私人)」の関係なのであり、人権を守るのは国家権力の側なのです。(私人間の人権侵害は大抵の場合、各々が持つ人権が衝突しているため、片方を一方的に縛ることは出来ない。公共の福祉の観点で一定の規制がかけられるに過ぎない。)統治編は、人権編に書いてあることを実現するための仕組みと理解すれば良いでしょう。

つまり、権力者にとって憲法は目の上のタンコブであり、出来れば取り除きたいもの。つまり、時の政権が憲法改正をやり易くしたがるのは、権力者の性であると認識すべきなのです。

ここで憲法改正の賛否を論じることはしませんが、有効投票数の過半数で良いというのは、やはり問題だと思います。それを補うには、投票率が上がることが肝要です。100%に近い投票率であれば、この問題はとりあえず解決出来るのです。

憲法改正案の提出を3年間はしないと謳っているのは、逆から見れば、その時点の政治状況次第で3年経った後にはやるということです。
それまでの間に、どれだけ憲法改正についての国民的議論が高まるかが重要です。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。