「自分の仕事をつくる」は絶対に読んでおけ!

ある人に貸そうと、西村佳哲さんの「自分の仕事をつくる」を持ち出したので、電車の中で読んでいたのですが、やはり大変の味わいのある本で、どうしても書きたくなったので書きます。

私が西村佳哲さんの本に触れたのは2009年のことで、その時の興奮は感動した言葉をツイートしまくるという形で現れました。

T-shirt
T-shirt / ototadana

何度読み返しても良い本というのは本当の良い本なのでしょうが、「自分の仕事をつくる」や、同じ西村さんの「自分をいかして生きる」あたりは、折に触れて読まないといけないと思うほどで、それだけ自分のいまの仕事のやり方や生き方を振り返るには好適書だと思うのです。

最初に心を鷲掴みにされるのは、ここです。

人間は「あなたは大切な存在で、生きている価値がある」というメッセージを、つねに探し求めている生き物だと思う。そして、それが足りなくなると、どんどん元気がなくなり、時には精神のバランスを崩してしまう。
「こんなものでいい」と思いながらつくられたものは、それを手にする人の存在を否定する。とくに幼少期に、こうした棘に囲まれて育つことは、人の成長にどんなダメージを与えるだろう。
大人でも同じだ。人々が自分の仕事をとおして、自分たち自身を傷つけ、目に見えないボディブローを効かせ合うような悪循環が、長く重ねられている気がしてならない。

柳宗理 片手鍋
柳宗理 片手鍋 / sota-k

あなたがもし、いま少し元気がないとしたら、それは自分の仕事に対する気持ちが弱いことが回り回って、自分のところに戻ってきた結果かもしれないと思ったら、どうでしょうか。少なくとも、あなたが「こんなものでいい」と思って仕事をしていたら、それに触れる人の元気を確実に少し奪っていることになるのです。

この本には、2年前の私が折ったドッグイヤーがいくつもあるのですが、その中で最も深く折り込んであるのは、ここです。

目的と手段の倒錯は、あらゆる仕事で起こりうる。
(中略)しかしそれが過ぎると、あらゆる仕事の最終的な目標であるべき「人」が、疎外されてしまう。
優れた技術者は、技術そのものではなく、その先にかならず人間あるいは世界の有り様を見据えている。
技術の話をしている時にも、必ず単なる技術に終わらない視点が顔をのぞかせる。音楽家でも、医者でも、プログラマーでも、経営者でも同じだ。

私がごく短い間、ある外資系コンサルティング企業グループに籍を置いた時、一つだけいまの私にも確実に影響を与えている言葉を授かりました。

「お客様が我々を求めているのは変革を必要としているからだ。社内の人だけでは出来ないことをやろうとしているから、社外に人を求める。」

私はこのコンサルティング企業を含めて、最も長い経験のあるシステムインテグレータなど、常に事業会社ではない企業に身を置いてきました。つまり、私は常に社外の人であったのです。だから、変革を起こすことが仕事であったと言えるのです。

システムインテグレータではもちろんのこと、コンサルティング企業でもポジションは情報システムに落とし込むところでしたから、技術について目的と手段を倒錯する危険性は極めて高かったといえます。キャリアの浅い頃には実際にその傾向もあったように思います。

しかし、重要なのは情報システムの先にいる人であり、組織なのです。情報システム自体が変革を起こすことはありません。情報システムへの人の触れ方、情報システムが介在することによる組織文化の変容こそが変革です。

Meeting with the other creatives
Meeting with the other creatives / marksdk

私は以前に、顧客と同じ意識に立つという記事を書きました。これは帯広にある建築設計事務所である象設計集団の仕事の進め方についてのものですが、これも「自分の仕事をつくる」に書いてあったことです。システム開発においても望ましい仕事の進め方だと思います。

もう一つ引用しましょう。個人と(属する)企業という観点です。

イタリアではデザイナーという言葉の代わりに、「プロジェティスタ」という言葉がよく使われる。全体を計画し前へ進めていく人、という意味だ。つまり、イタリアにおけるデザイナーの仕事は、依頼されたモノに美しい色や形を与えることでも、特定分野に限られた専門職でもない。「何をつくるか」を提示し、現実化に向けたリーダーシップを取ることがその仕事の本随なのだ。仕事の起点は、それぞれのイマジネーション(想像力)にある。

日本はどうだろう。この国のデザインの最も大きな特徴は、デザイナーの大半が企業勤めのインハウス・デザイナーであること、平たく言うとサラリーマンであるという点にある。
(中略)モノづくりの多くは、個人のイマジネーション以前に会社の経営戦略やマーケティング、開発技術を起点にして行われる。デザインの仕事はカテゴリー別に専門化され、一人のデザイナーが様々なモノづくりに関わる事例はきわめて少ない。

単純に比べると、イタリアのデザイナーは個人に立脚したところから仕事を展開し、日本のデザイナーは企業を起点に仕事を展開してきた。別の言い方をすると、前者は「頼まれもしない」のに自分の仕事を考え・提案し、後者は他者から依頼されることで仕事をはじめる。

デザイン分野に限らず、私たちは企業という母体からの乳離れを始めているのかもしれない。GDPの数値が、豊かさの実感や人生の充足感に直結するわけではないことは、既に知っている。自分を満たす、自分事としての仕事。
もちろん、会社で働くことと個人で働くことを、対立的に捉える必要はない。要は、仕事の起点がどこにあるか、にある。私たちはなぜ、誰のために働くのか。そしてどう働くのか。「頼まれもしない仕事」には、そのヒントが含まれていると思う。

西村さんは建築設計がキャリアのスタートなので、建築やデザインに関する事例が多いのですが、そもそも情報システムの開発は建築を範としてきたのですから、イタリアのプロジェティスタの「頼まれもしない」働き方は、ITの分野でも検討に値するものと思います。

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この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。