6月10日、最高裁で下記のような判決が出たとニュースになりました。
山口組系・旧五菱会のヤミ金融事件の統括者に対して愛媛県内の借り手11人が損害賠償を求めた訴訟の判決で、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は10
日、「著しく高い金利で違法な貸し付けをした業者からは、利息だけでなく元金も含めて借り手が支払った全額を損害として取り戻せる」との初めての判断を示
した。
(中略)
第三小法廷は「元金は違法な利益を得るという反倫理的行為の手段であり、貸した時点で不法な給付に当たるので、返済する必要がない。返済した場合も、損害額から除くことは許されない」との判断を示した。引用した記事の前半は事例で、重要なのは後半部分です。
「貸した時点で不法な給付に当たるので、返済する必要がない」とは、どういう意味でしょうか。
これについて、法律的な説明を試みたいと思います。この問題について、基本となる条文は民法703条です。
(不当利得の返還義務)
第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。贈与契約などの法律上の原因がないにも関わらず、お金を受け取ったとします。これが不当利得です。一方、お金を渡した側は理由なく損をしています。公平ではありませんから、お金を返して元に戻さなければなりません。
簡単にいえば、それが不当利得の返還義務です。ところで、ヤミ金のケースで不当利得の条文が出てくるということは、そもそもお金を貸した借りたの関係はないということでしょうか。
使えばなくなるようなもの(まさにお金がそうです)を貸す契約を、消費貸借契約といいます。特にお金に関しては金銭消費貸借といいます。条文を示します。(消費貸借)
第587条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。「お金を返しますよ」という約束をして、お金を借り受けることによって金銭消費貸借契約は成立します。民法上は無利息が原則です。もちろん、ヤミ金は法外な利息を取ることを含んだ契約をするわけですが…。ヤミ金のケースでは、当然借りる方は金銭消費貸借契約書を書いて返す約束をしているでしょう。どうやら、契約は成立しているように見えます。であれば、ちゃんと法律上の原因があってお金を受け取っていますから、不当利得にならないようですが…。
(公序良俗)
第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。90条は強行規定です。民法には契約自由という大原則がありますが、強行規定には逆らえません。出資法の制限利息を超える融資は、この90条に違反して無効となるのです。ヤミ金の事例も、これに当てはまるわけですね。
よって、金銭消費貸借契約は成立していません。それなのに、借主(契約が成立していない以上、借りてはいないのですが)はヤミ金からお金を受け取っている。これは不当利得です。
しかし、だとすれば、借主はヤミ金にそのお金を返すべきではないでしょうか。(不法原因給付)
第708条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することが出来ない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りではない。この条文がゴールです。
708条は、最初に挙げた703条の不当利得の返還義務の例外にあたる条文です。法律上の理由なくお金を受け取ったんだけど、実は法律上許されない理由があった場合、法律は返還しろとは言わないのです。「クリーンハンズの原則」といいます。教科書でよく挙がる例では、愛人契約があります(最判昭44・9・26)。
ヤミ金の場合、「不法な原因のために給付した者」に当てはまります。ヤミ金は明らかにクリーンハンズとは言えません。この場合、返還請求権はないのですから、ヤミ金は借主に対して「(元本相当分を)返せ」と言えません。
借主が既に返済している場合は、それが逆にヤミ金にとっての不当利得になり、借主の方はクリーンハンズですから、こちらは保護されて(708条後半の「不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りではない」とありますので、不法原因給付の適用外になり、元の703条が有効になります。)、返還請求権が発生することになります。よって、今回の判決に至るわけです。ところで、第二審の高松高裁は、もともとどういう判断をしたかというと、ヤミ金の苛烈な取立てに対する慰謝料を認めた上で、元本返済分については損害と認めず、払った利息について損害を認めました。これを「差額説」といいます。
今回の最高裁の判断は「全額説」です。他にも札幌高裁で同様の判断が行われています。