技術の進歩から価値を生み出せるのがSIer?

(コンピュータ)システムの価値には、2つの側面があるのではないかと思う。
1つは、もともと必要な業務をシステムに肩代わりさせたり、システムの助けを借りることだ。「ITを道具として使う」側面だ。
もう1つは、「ITがあるからこういうビジネスが出来る」というために、システムを活用するという側面である。

私たちは、今までは、前者を積極的にやってきた。多分、OA(Office Automation)とかFA(Factory Automation)の延長線上ではないだろうか。
ITを道具として使うと、既存の業務に対して、以下のようなメリットを与えてくれるだろう。

  1. 大量のデータ(例えば名簿や台帳)を記憶すること。
  2. そのデータを必要に応じて取り出したり、加工することを瞬時にこなすこと。
  3. そのデータを記憶したり、取り出したり、加工したりすることを記録し、監査に用いること。
  4. 主にデータの加工に関することで、顧客等との間で、人間同士のやり取りでやってきた業務を、システムに肩代わりさせて、従業員が働かない時間でも、そのやり取りを出来るようにすること。(例えば、銀行や図書館等の窓口業務)
  5. 電話や手紙、回覧板、社内報といったコミュニケーション媒体の優秀な代替となること。

他にもあるに違いないが、ざっと、このようなことが思いつく。
では、後者の「ITがあるからこういうビジネスが出来る」というのは、何のことだろうか。
これは、正直言うと前者との切り分けが難しいように感じる。例えば、上記リストの4.や5.を、それということも出来るかもしれない。

………。

さて、実のことを言うと、前者と後者の違いは相対的なものなのかもしれない。
コンピュータというものが存在する前に、上記リストのようなことは、思いつかなかっただろう。コンピュータは計算が速いのだからといって、弾道計算や円周率の計算に使っただけだったら、そもそも、それをオフィスで使う必要性すら感じないだろう。オフィスで弾道計算などしないのだから。

しかし、私たちはコンピュータを普段の生活で使っている。
この文章の冒頭で「私たちは、今までは」という言葉を使った。これが曲者だ。
2006年という今に生活をしている私たちは、そう思っていても、30年前の誰かにとってはそうではなかった。まず間違いなく、30年後の誰かにとっても違うだろう。

(私はSIerに勤めるSEであるので、その視点で考えを進めることにする。)

こうしたことの根本原因は、コンピュータ技術は今もって、さらに進化しているということだ。
例えばソフトウェア技術が進歩したとき、「あぁ、また新しい作り方を覚えなくてはならない」とか「今あるこの業務をこう作れるようになる」と考える。それはそれで、正しい。(「覚えなくては…」というのは、若干後向きではあるが…。)
ただ、ここで思考を止めてしまうと、前者の価値しか生み出せなくなる。
次に必要なのは、「この技術を使えば、こういう業務のやり方、ビジネスのやり方が出来るようになる」ということだ。これで、やっと後者の価値を生み出せるようになる。

SIerにとっての顧客は、基本的には前者の価値を考えている。日々の業務は目の前に山積しているし、技術の進歩を追いかけることは本業ではないのだから当然だ。
だから、SIerのような専門ビジネスが必要となる。
今後、いくらEoDやEUCが進んで、ツールがマッシュアップで出来るようになったとしても、技術の進歩が止まらない限りはSIerの出番は間違いなく存在する。
逆に言うと、技術の進歩で生まれる新しい業務のやり方、ビジネスのやり方を提案できないSIerは、いずれ出番を失うということでもある。
自戒…。

そう考えていくと、SIerの価値に思いが至る。
SIerの価値は技術を進歩させることではなく、技術の進歩を価値に変えることではないか…と思うのだ。つまり、具体化させるのが仕事ということである。
もちろん、それはSIerに勤める人間の存在意義にもなる。

当たり前のことなのかもしれないが、SIerに勤めて7年目になると、こういう考え方もするようになるということだ。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。