コアコンピタンスを活かして新事業へ~富士フイルムの事例

今日の日経に経営戦略論の教科書に載っていそうな事例が出ていました。

「電機の選択第9部、復活の条件・中」というシリーズものの記事です。半世紀に渡って家電の王様だったブラウン管テレビで覇者であったソニー、パナソニックが、いま薄型テレビでテレビ事業の縮小を迫られています。さて、これからどうしていくのか。そのヒントとなるのが富士フイルムの事例です。

X10 on Fujifilm Square
X10 on Fujifilm Square / 246-You

富士フイルムは、その社名にもあるとおり写真フイルム事業を展開しています(外から見ると、そのように見えます)。しかし、その売上高は2010年度では全体の2~3%もありません。2000年度はまだ15%程度を占めていたのですが、デジカメが主流になってここまで減少しているのです。

では、富士フイルムはいま何をやっているのか。将来の事業の柱に据えているのは医療機器・ライフサイエンス部門で、売上は全体の10~15%程度まで成長しており、デジカメやプリントといった写真関連の事業全体とほぼ同規模になっています。全体の売上高は2000年度の1.4兆円から、2010年度は2.2兆円(富士フイルムホールディングスとして)と急成長を見せ、米国の写真フイルムの雄であるイーストマン・コダックが11年12月期に4億~6億ドルの赤字になることと比べると、圧倒的な業績の差が出ています。

富士フイルムはなぜ成功しているのか。ここがまさに、経営戦略論の教科書的展開なのですが・・・。

古森社長は1年以上かけ社内の技術を洗い直し、内視鏡や医薬品など「医療機器・ライフサイエンス部門」を将来の柱に据えることを決めた。以後、富士フイルムが手がけた買収は約30件、総額6千億円。その半分を同分野に集中させた。

外部環境の変化として、デジカメの普及によってフイルム市場が縮小することは分かっています。この自社にとっての脅威となる変化に対応する術を探るべく、まずは社内の技術力の棚卸しから始めたということですね。

写真フイルムの厚さは20マイクロメートル。20層構造の中に100種類の薬剤を含む。これを安定的に量産できる企業は富士フイルムを含めて世界に4社しかなかった。

そこで見つかったのが、このマイクロメートルレベルの生産プロセスを管理する能力だったというわけです。しかも、それが出来るのは世界に4社しかないとなれば、これを活かすより他にフイルム市場の縮小を乗り切る戦略はなさそうです。

このように社内の資源をベースにして経営戦略を組み立てる考え方をリソース・ベースド・ビューといいます。その基本となるのがコアコンピタンスであり、その定義は「顧客に対して他社には真似できない自社ならではの価値を提供する企業の中核的能力」で、コアコンピタンスの条件として下記の3つがあります。

  • 多様な市場へのアクセスを可能にする企業力を広げる力
  • 最終製品が消費者の利益に貢献する
  • 競争相手が模倣しにくい

この中では「模倣しにくい」というところが最大のポイントで、組織文化やノウハウといった情報的資源がコアコンピタンスになりやすいと言われています。組織文化やノウハウは一朝一夕にして築けるものではなく、故に他社が模倣しにくいというわけです。

これを富士フイルムの事例にあてはめると、古森社長が「生産プロセスの管理は得意分野だ。写真フイルムで培ったノウハウが生かせる」と述べているように、富士フイルムはコアコンピタンスに出来うるノウハウを発見したのです。さらに、企業買収や共同出資会社の設立といった方法でターゲット市場へのアクセスを可能とする企業力もあったということです。

日経の記事では、富士フイルム以外にTDKの取り組みについても紹介されています。さて、ソニーやパナソニックといった電機大手は次の一手をどう見つけ出すのでしょうか。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。