第5回ITC-Neo研究会でIT経営ロードマップの2016私家版を発表しました

ITコーディネータの仲間たちと作っている届出組織ITC-Neo研究会の、第5回定例会を7月23日に開催しました。
ITC-Neo研究会ではメンバー各自が、年度ごとのテーマを持って活動しています。

私の今年度のテーマは、「攻めのIT」を考えること。そこで、当社に最近、持ち込まれているご相談事例をもとに、各社でのIT利活用の捉え方について分析を行ってみました。

攻めのITの方向性

発表資料から分析結果を抜粋したものが、このBSC(バランススコアカード)です。財務・お客様・プロセスの視点にある各要素は、2010年に経済産業省が出したIT経営ロードマップで攻めのITの選択肢として上がっていたものを抜き取り、構成しました。
人材・変革の視点にあるWeb集客やシナジーというのは、ちょっとBSCの本来の使い方とは異なるのですが、当社へのご相談事例を整理するとこの2パターンに分かれたので、置いてみました。

まず、Web集客については引き続き関心が強く、特に旧来のやり方での集客に落ち込みがあったり、創業したばかりのようなケースでは、まずは集客ということで引き合いをいただいているのだろうと思います。
シナジーについては、何とのシナジーかという点でさまざまあるのですが、例えば顧客のシナジー(同一市場に新規製品)や、データのシナジー(ビッグデータの活用)といったものがあります。こちらの引き合いは、足下の経営基盤が比較的安定しており、次への布石を打ちたいというものが多いようです。

WHATとHOW

次のスライドは、Web集客やシナジーといった攻めのIT活用を行う際に必要となること、そしてITコーディネータとしてご支援できることは何かを考えたものです。
大きく分けて、強みを見極める「WHAT」、最新のIT動向を活用する「HOW」の2つに分けています。

まずWeb集客からいうと、最近のご相談事例に関わらず、以前から「Webで何をアピールしたいのか」が見えていないことが多いように感じています。当然のことですが、自社のWebサイトは「あれば良い」というものではありません。自社のWebサイトをつくることで何を得たいのかをはっきりさせる必要があり、そのために何をアピールできるのか、閲覧者に何を提供できるのかという戦略がしっかりしていないと、意味がありません。

でも、「とにかく欲しい」、「とにかく作りたい」、「とにかく格好良くしたい」なんていう方もいるのです。それでは意味がないし、そういう考え方ではWebサイトを作った後に更新が止まってしまいます。Webサイトは更新頻度とコンテンツの蓄積が重要です。それができないなら、いくら格好良いWebサイトができても仕方ないのです。

まず「強みを見極め」て戦略を練ることは、シナジーを考える上でも重要になります。シナジーとは自社の持つ何かの強みと、他の何かを掛け合わせることによって生まれるものだからです。例えば業界や規模等に特化した既存顧客層だとか、コアコンピタンスとなるノウハウや企業文化、さらにIoT時代の昨今では自社の持つビッグデータも強みになります。

そうした強みを見極めた上で、どういうITを活用するかという「HOW」のステップに移ります。ITはまだまだ進化しており、時代に適したITは時々刻々と変化します。最近だと、人工知能、ロボット、IoTといったあたりがブームではあります。
Web集客においても、Webサイトだけの時代ではなく、SNSとの連携、ポイントやクーポンも検討する必要があります。さらに、Pokemon GOのような位置情報を伴う仮想現実も、リアル店舗を持つようなビジネスでは重要になってくるかもしれません。

IT経営ロードマップ

次のスライドはIT経営ロードマップです。経済産業省が2010年に出したものですが、企業がIT経営を推進するステップを、見える化→共有化→柔軟化という順序で整理しています。
まず、自社・自部署の情報や業務プロセスを見える化する、それを他社(顧客・取引先)・他部署と共有化する、そして時代に即応してプロセスを組み替えたり、他社等との連携を変化させられるように柔軟化し、高付加価値領域に特化していくというものです。

IT経営ロードマップ2016私家版

2010年に出たものとはいえ見える化→共有化→柔軟化というステップは色褪せてはいないと思います。
ただ、時代背景が異なることもあり、それぞれのステップで具体的に何をすれば良いかをブラッシュアップする必要があると思い、私なりの2016年版を作ってみました。

まずは見える化です。これを「強み(WHAT)の見える化」と捉えることにしました。
自社の強みや、その強みの源泉となるプロセスを見える化する。さらにIoT時代を踏まえ、自社の保有するデータやIoTの取り組みを強化すれば保有することができるデータを見える化することも追加しています。
その方法として、旧来からのSWOT分析やスライドには上げていませんがBSC分析が考えられます。また、ビジネスモデルキャンバスも活用できるでしょうし、言葉ではなく形で見える化するためのPoC、さらにIoTを挙げました。

次に共有化です。これは「強み(WHAT)の見せる化」としました。いまはWebやSNSをはじめとして、やる気になればいくらでも見せる、アピールすることができます。強みを隠さずに積極的に公開していく、世界に解き放っていくことが必要ではないでしょうか。
例えばハッカソンは自社の持つ技術や情報を積極的に公開し、外部の知識を得る方法です。そうした共創環境をつくり、各社の強みを持ち寄る姿勢。それが2016年における「共有化」です。

最後に柔軟化は、WHATとHOWの分離と定義しました。自社の強みであるWHATは磨き上げていく対象で、それが企業としての競争力になるものです。そのWHATがHOWにロックインされていては時代の変化に対応することができません。HOWはどんどん変化していきます。だから、WHATとHOWを分離しておくことが重要です。
2010年版のIT経営ロードマップでも、柔軟化の方法としてモジュール化が挙がっています。これを2016年に引き直すと知識やノウハウのモジュール化である人工知能とそのAPI化、保有するデータのオープンデータ化などが考えられます。

まとめ

この私家版ロードマップは、最近ぼーっと考えていたものを研究会の前日に一気呵成にまとめたものなので、まだまだ荒削りです。
ただ、IT経営ロードマップにおける原理原則は残しつつも、その進め方は時代に合わせていかねばなりません。これもまた、WHATとHOWの分離といえます。

引き続き、磨いていこうと思います。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。