3日間の研修講師を終えて、AIやIoTについていま考えていること

ITコーディネータ協会(ITCA)で開催した「ITCのための実践AI研修」の3日間の講師活動が終わりました。もともと2日間の内容でしたが、1日目の研修が満席による追加日程で増えたのでした。
3日間、無事に講師を務めることができたのは、積極的に研修に参加いただいた皆さん、ITCAの皆さんなど、さまざまな方のお陰と感謝しております。ありがとうございます。早速、次回開催のお話をいただいたことにも感激しております。

AIやIoTに関する差し迫った疑問

さて、研修の中ではさまざまなご質問をいただきました。研修内容に関することはもちろんですが、研修受講を終えて、ではこれからどうすれば良いのか?という具体的なお話もいただきました。

事業会社の方:何かAIやIoTでできそうなことはあるが、何から手をつけるべきか?
SIerなどベンダーの方:顧客企業にどう伝えて、AIやIoTでのビジネスを進めていけば良いか?

ざっと、こういう整理ができるのではないかと思います。

前者の方には、まずデータを集めて分析してみることをお勧めしました。いま、自社にどのようなデータが蓄積されているのか、具体的にやりたいことがあるとしたら、それに関係しそうなデータは取れているのか。データを取れていないとしたら、新たに取り始めることが大切ですし、現状のITではうまく取れそうにないデータであればIoTやコグニティブAIの活用で取れたりしないか?といった検討が必要になると思います。

データが取れれば、次はデータの分析です。数値データであれば、MicrosoftのPowerBIは無料でダウンロードして使うことができますし、Excelと同様の関数を使うこともできるので、データ分析の第一歩に使うツールとして優れています。ここで分析したいのは、データの中から有意な傾向や相関といったものが読み取れるかどうかです。そうしたことはデータをAIに入れておきさえすれば勝手にやってくれるのではないの?と思うかもしれませんが(研修を受講した方はそう思わないと思いますが・・・)、まずは人間がやってみる必要があります。(文章データであれば何がやりたいか次第ですが、テキストマイニングを行ったり、検索系のことであればWatsonのNLCやR&Rをいきなり使うこともあるでしょう。画像データであれば、やはりWatsonのVisual Recognitionで何かできるかもしれません。)

有意な傾向や相関が読み取れればしめたものです。分析対象によっては季節変動などの要素も鑑みて最低1年分くらいのデータが欲しくなるところですが、まずは関係しそうな項目を特徴量として機械学習にかけてみれば良いでしょう。研修の中ではAzure MLを取り上げて体験していただきました。Azure MLは機械学習のアルゴリズムを自分で選択しなければなりません。そこはMicrosoftが提供しているチートシートを参照したり、分類が必要なのか回帰が必要なのか、分類ならロジスティック回帰で良いのかSVMでいくのかといったことを少し勉強したり、実際のデータで試行錯誤したりするということになるでしょう。

根本的な疑問

と、具体的にやりたいことが見えている場合は、進め方としては具体的な話ができるのですが、問題はそれが見えていない場合です。ベンダーの方の疑問は、あくまで顧客企業の課題次第なのでまさにそれに当てはまりますし、事業会社の方も「具体的にやりたいこと」までは出ていない場合も多いと思います(それでも具体的なビジネスプロセスがありますし、どんなデータがあるかも見えていますから、まだ良い方です)。

そうした場合に、何ができるか。これは私にとっても課題で、研修の中ではデザイン思考的な方法を入れたりもしましたが、もう少し何かしたいな・・・と、思っているところです。

ただ、これはあくまでニーズから出発すればよいのであって、無理にAIやIoTといったツールから考えなくても良いではないか・・・という指摘が出てくることは分かっています。そうなのです。無理にAIやIoTを使わないといけないわけではない。いままでのITで充分なことも多いでしょう。

しかし、もう少し考えてみると、あるニーズ(困りごと)があって、そのソリューションを考えるときにAIやIoTを使う方法がきちんと入っているかどうかは、これからの時代、重要ではないかと思います。AIやIoTで何ができるかを知らないが故に、ソリューションとして思いつかないのはマズい。最終的な結論がAIやIoTにならなくても良いのですが、いちおう、候補には出る状態にしておいた方が思考のウィングとしては良いはずです。

そうしたことを考えるときに、AIを入れれば何でもできるといった夢物語とは決別した上で、具体的な落とし所というか、使い方のパターン、思考法のようなものを整理しておきたいなと思っています。

とはいえ実践

また他方からは、実際に何かやってみる、手を動かしてみるのが一番だ!という声も聞こえてきます。それもそのとおりだと思っていて、だから今回の研修では体験を結構な割合で入れたり、AIやIoTに絞ったもくもく会をやったりもしています。

次のステップは、勉強や趣味としてではなく、実際のビジネスの中で「ちょっとやってみる」をいかに簡単にできるようになるかではないかと思います。現場で「明日からできる」が重要なのではないかと。それで、いきなり売上が上がったり、生産性が向上したり・・・ということにはならないでしょうが、まずやってみることでデータも集まり始めるし、アイディアも出始めるかもしれない。

結局のところ、いかに現場にとってAIやIoTが身近になるか。ふつうのツールとして扱えるようになるかが肝心なのではないかと思うところです。

こうしたことは、ここ最近ずっと考えているのですが、3日間の研修講師としての活動を通して、やっぱり考えなきゃなぁと・・・。’

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。