経営情報論とダイナミックケイパビリティ

こちらではずいぶん遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
1月4日には仕事始めをして、もう2週間ほどですね。時間が経つのは早いものです。すっかり正月気分は抜けました。

年末のあたりから、あるワーキンググループに参加しています。内容をオープンにして良いか分からないので、いちおう伏せておきますが、「経営とIT」について頭の中がくるくると回っている状態です。

そんな活動が始まったからというわけではないのですが、去年の秋頃に有斐閣の「現代経営情報論」という本を買いました。たぶん、大学の専門科目の教科書として使われている本だろうと思います。教科書というと今さら・・・という感じもしますが、この本は2021年5月に出たものなので、昨今のITやDXといったテーマがしっかり組み込まれています。それに、あくまで教科書として使われるものなので、そこら辺の啓蒙書とは違って学術的な裏付けがしっかりしているのも有り難い。

私なりに響いたポイントを抜き書きすると、こんな感じです。

経営情報論とは何か

ICTは、独立的に扱うべき存在ではなく、人的・組織的要因と連動することによって収益性・生産性の向上に貢献するのであって、ICTが直接的あるいは自己完結的に収益性・生産性の向上に貢献するものではない。

経営情報論は、最新の先進的なデジタル技術を含むICTと非ICTによる情報的相互作用を補完的に機能させて、企業などの組織体(群)をいかに維持、発展させるかを扱う理論であり、見方を変えれば情報的経営論ともいえる、じつに広義な総合的経営理論なのである

経営情報論をICTだけで考えてはならないということですね。ITコーディネータは自らを「ITと経営の架け橋」と謳っているわけですが、ICTが充実したから経営が変わるなんてことはないのです。経営の中でICTと業務(非ICTの情報的相互作用)は両輪であり、双方が密接に関連しながら経営を変えていきます。特に今の時代は業務が先でICTが後というわけでもなく、業務とICTをいったりきたりしながら両輪の充実を図っていかねばならないと思います。

アジャイルの本質はアウトカム(成果)を重視するマインドと、それを実現する組織(チームの成長)であって、アジャイル(機敏)な状態を維持することだと思います。
だとすれば、アジャイルはICTの開発に適用されるだけのプロセスではなく、ICTと業務がしっかり噛み合って同時進行的に変化をしていく必要があるはずです。

ダイナミックケイパビリティ

物理的装置としてのICTは競争優位の源泉にはならない

ダイナミックケイパビリティを構成する諸能力を支える組織能力として、IT資源を組織的に活用する企業の総合力であるITケイパビリティを形成することが重要

ITケイパビリティが実現する競争優位は長期的になるとは限らない。競争優位の次元を持続させるのではなく、次元の異なる競争優位を生み出し続けることで、結果的に持続的競争優位を達成できる

ケイパビリティはリソースベースドビューに立脚する経営学での理論で、組織がもつ資産(人的資産、ICT、ナレッジなど)と、それを活用できる能力のことです。物理的なICTがあるだけではケイパビリティと言えず、それを企業として活用できるノウハウの成熟があって、初めてケイパビリティになります。この点でも、ICTと業務の両方が揃わないといけないということが分かります。

さらに、一度ケイパビリティを形成すれば、それで安泰というわけではありません。市場や技術はどんどん変化していくので、ケイパビリティをその都度作り直していける能力であるダイナミックケイパビリティを構成しないと、企業として長期的な競争優位を実現できないわけです。

ダイナミックケイパビリティを実現するためには、環境変化を鋭敏に察知する能力(センシング)、機会を捕捉して活かせる能力(サイジング)、社内の資源を変化させる能力(トランスフォーミング)が必要とされています。すべて、経営でしっかり対応するべき事柄であり、経営マインドやガバナンスの成熟、さらにはリソースの充実といった対策が必要と考えられます。

今年もよろしく!


新年は福岡天神のAppleでiPhone 14 Proを買いました。

と、いうことで、今年はこんなことを(さらに、さらに深く、広く)考えつつ、日々精進していきたいと思います。本年もよろしくお願い致します。(遅い・・・。)

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。