デジタル経営におけるデータの重要性

ITコーディネータ・プロセスガイドライン(PGL)Ver.4.0において、デジタル経営は下記のように定義されています。

デジタル社会における経営環境の変化を洞察し、戦略に基づいたデータとITの利活用による経営変革により、企業の健全で持続的な成長を導く経営手法である。

デジタル経営と、いままでITコーディネータが提唱してきたIT経営との違いは、こちらの記事にまとめました。

IT経営はデジタル経営に内包されているという説明になっているのですが、では、IT経営に何が加わるとデジタル経営になるかというと、「デジタル社会」における取り組みであることと(デジタル社会の環境変化に個社として対応するという側面と、デジタル社会の実現に参画していくという側面があると思います)、「データ」とITの利活用であるという2点です。

さらに、デジタル社会の定義が、「ビッグデータを効果的に活用する社会」であるので、とにかくデータが重要ということは間違いありません。

DXにおけるデータ

DXレポートを読み込んでいくと、データについては大きく分けて3つのことが述べられているように思います。

顧客価値の創出にデータを活用する

DXレポート2で主に述べられたことで、企業はデータとデジタル技術を活用して顧客や社会の課題を解決し、新たな価値を創出することが求められています。

データ分析・活用に必要なデータがすぐに利用できるシステムにする

最初のDXレポートで主に述べられたことで、主にレガシーシステムを刷新してデータを活用できる環境を作ることが必要とされています。
そうした環境があってこそ、データを活用した顧客価値の創出ができるというわけです。

他社とつながる

DXレポート2.1では、デジタル社会の特徴として、下記のようなことが説明されています。

  • 様々なプロセスにおいて、人による主観的な判断からデータに基づく客観的な判断へと変化する
  • オープンアーキテクチャで多様なサービスがつながる。他社のサービスを活用して価値を創出する、また他社のバリューチェーンに参画する

個社でのデータ活用だけではなく、他社との共創関係を作ることが必要で、その中心にあるのは当然にデータということになるでしょう。

PGL4におけるデータ利活用

PGL4では、デジタル経営の実現のためにデータの利活用が不可欠であり、戦略や計画にデータ利活用を組み込み、実践していく必要があるとしています。

具体的には、デジタル経営戦略の立案において経済指標や統計などの公開データ、さらに日々の業務で蓄積したデータを活用する必要があります。戦略の実行において変化する、市場や現場でのデータを収集し分析する「モニタリング&コントロール」も必要です。
そうして、顧客価値の実現を果たしていくのがデジタル経営というわけです。

では、何をするべきか

PGL4では、デジタル経営戦略を策定するプロセスの1つのタスクとして、全社的なデータ利活用の方針や必要なデータ基盤整備等の方向性を定義する必要があるとしています。
また、デジタル経営共通基盤の1つであるモニタリング&コントロールのアクティビティを組み込む必要があります。

モニタリング&コントロールを進める上での第一歩は、パフォーマンス指標の確認です。つまり、何をモニタリングしないといけないか、どのようなデータを分析する必要があり、そのためのデータがどこにあって、どのように収集・蓄積するかを検討するのです。

データは何でも収集して、蓄積しようと言っているわけではありません。目的に基づくデータ収集・蓄積でないといけないし、収集・蓄積したデータは、当初の目的に沿って分析・評価し、そこで分かったことを元に戦略や業務遂行を是正していく必要があるのです。

仮説を立てる、検証する

PGL4は、その全体において仮説検証を行っています。そもそも、PGL4はデジタル経営成長サイクルと、価値実現サイクルの2つのサイクルで構成されており、これは仮説検証をしやすくする仕組みと捉えても良いと思います。いずれのサイクルにも検証のプロセスが組み込まれており、特に価値実現サイクルには提供価値検証プロセスが入っています。

データ利活用においても、どのようなデータを収集・蓄積し、分析するかは仮説に基づいて行うべきです。新たな顧客価値の創出や、業務の抜本的な改革といった経営課題において、その解決策が最初から分かっていて、計画どおりに進めれば実現するといったことは、VUCAの時代においてはなかなか起きることではありません。それよりも、仮説を立てて、その検証を行うためのデータ項目を設計し、仮説の実行によってデータを収集・蓄積し、データの分析によって検証を行う。

そうした仮説検証のプロセスに基づいて得た知見を元に、次の仮説を立てる・・・。その繰り返しがVUCAの時代において、経営課題の解決に近づく方法です。

データは重要だけれども・・・

冒頭に述べたように、DXにおいてデータは極めて重要です。データはヒト・モノ・カネと同様に資産です。
しかし、データをこねくり回していれば何かが生まれる・・・というようなものではないことも押さえておかなければなりません。もちろん、AIを使えば勝手に何かが出てくるというわけでもありません。当然のことですが、経営課題から始めることが重要です。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。