冨山和彦さんの「なぜローカル経済から日本は甦るのか」を読みました。
日本経済を論じた本というのは数多あるわけですが、その中のいくつかを読んできた中では、非常に腑に落ちた。腹にストンと来た。自分事として展望が拓けた本でした。
グローバルとローカルは別の経済圏にある
この本が主張することのすべては、グローバル経済とローカル経済を分けて考えることに基礎を置きます。
グローバル経済の特徴
- 製造業やITなど規模の経済が働く業種がメイン。
- 規模の経済では世界を寡占するトップ数社しか生き残れないので、毎日オリンピックが行われているようなもの。
- 拠点や工場をどこに置くかは、他社との競争の中で、条件の良いところを選ぶ。日本企業だから日本に拠点を置くわけではない。
- 国内経済として考えると、競争条件を国際標準に合わせることで、グローバル企業に選んでもらう立場。もしくは、グローバル企業に投資して、グローバルで上げた収益を国内に還元してもらえば良い。
- 社内のやり方、社内の人脈が大切なメンバーシップ型雇用。新卒一括採用、終身雇用の日本型雇用も適す。
- 基本的にエリートなので、リストラがあっても他社への転職も比較的容易。
- 日本経済のGDPで3割、雇用で2割程度。
ローカル経済の特徴
- 小売やサービス業など密度の経済が働く業種がメイン。
- 需要の生まれる場所に供給がないといけない。いくらグローバル社会だからといって、岩手のバス会社がベトナムに拠点を移すわけにはいかない。
- 遠くの良いスーパーより、近くのまぁまぁのスーパー。完全競争にはほど遠い。
- 基本的に人材不足!人あまりの時代は終わった。少子高齢化でさらに加速。
- バスの運転、スーパーのレジなど仕事そのものが大切なジョブ型雇用。
- 様々な人々の雇用の受け皿となっており、リストラがあると再就職が難しいケースもある。
- 日本経済のGDPで7割、雇用で8割を占める。
ローカル経済を立て直すには?
基本的にアベノミクスがやっている政策はグローバル経済、特に製造業向けのパッケージ。特に円安政策は日本の高度成長期の加工貿易モデルであれば効果的だったものの、既にその時代は終わっています。
なので、グローバル経済で戦う大手製造業が潤っても、それは海外で稼いだ収益を円安の日本に持ち帰っただけ。昔のようなトリクルダウンは起きず、ローカル経済は潤わないというわけです。
では、ローカル経済はどうするべきか。
冨山氏の主張からいくつか拾ってみると・・・。
労働生産性を上げる
- 日本の労働生産性は製造業では世界標準と大差ないが、ローカル経済の中心を占めるサービス業は非常に低い。
- 人あまりの時代では、労働生産性の低い企業も様々政策で延命してきたが、人手不足の時代ではその必要はない。市場から退出してもらって、人材を労働生産性の高い企業に移す必要がある。
- 市場からの退出を促す策としては、最低賃金を上げる。それを拒むのは労働生産性を高める努力をしていない経営者であり、その一部はいわゆるブラック企業の経営者である。
- 労働生産性を高める方法としては、日々の業務オペレーションやICTの活用などで、他社の良い取り組みを真似るベストプラクティスアプローチ。ローカル経済は密度の経済なので、別の地域にある企業は競合関係になく、ベストプラクティスが出てきやすい。
コンパクトシティ化
- 日本の小さな町村の多くは、それほど長い歴史を持っていないことが多い。人口が増えた時代に開かれた町も多い。人口が減る時代になったのだから、元に戻すべき。
- コンパクトシティ化を推進する。
私の立ち位置としては・・・
ずっとIT業界に身を置いてきて、一時はいわゆるグローバル企業にも籍を置いたこともあると言えばあるのですが、私にしろ弊社にしろ、現時点でグローバル経済の住人でないことは確かです。
冨山氏も言っているのですが、グローバル経済とローカル経済は決して二項対立的なものではなく、人それぞれが職場としてどちらを選ぶかという程度の話です。
グローバル経済で働く人も生活はローカル経済の中で行っているし、ローカル経済で働く人もグローバル経済の中で競争が行われて安くなったスマホを使っています。
日本経済の大部分を占めるローカル経済を向上させる施策として、企業の労働生産性を高めることが挙げられています。その手段であるベストプラクティスアプローチでは、業務改革、ICT導入といった方法を採るわけで、この辺に私及び弊社の活躍できるスペースがある。
特に情報システムの世界はクラウドサービスの進展が目覚ましく、規模の経済化が進んでいます。これ自体はグローバル経済での話。ただ、その競争でどんどん安く便利になるであろうクラウドサービスを、ローカル経済の住人である企業の労働生産性向上につなげる。これは、とても意義のある仕事だと思うのです。