デジタルガバナンス・コード2.0を整理する

2週間ほど前にDXレポートをあらためて読み返してみるという記事を続けて書きました。

DXレポートは2.2までで打ち止めとなっているのですが、その後の経済産業省のDXに関する取り組みの一つとして、デジタルガバナンス・コードがあります。2020年11月に初版、2022年9月にバージョン2.0が出ているのですが、これがDX認定を取得するための基本的な事項として現在でも活用されています。

デジタルガバナンス・コードの構造

(出典)デジタルガバナンス・コード 2.0 P3

デジタルガバナンス・コードは、経営者に求められる企業価値向上に向けて実践すべき事柄であり、6つの「柱となる考え方」でできています。それぞれの「柱となる考え方」に基づいて、DX認定での認定基準、望ましい方向性、取組例が整理されています。

というのが、デジタルガバナンス・コードで示されている全体構造なのですが、6つの「柱となる考え方」の関係性を私なりに整理したのが下図です。

まず、「ビジネスとITシステムを一体的に捉える」ことを前提として、デジタル技術による様々な影響を判断した上で策定する「経営ビジョン」と、その実現に向けて設計した「ビジネスモデル」が1つ目の柱となる考え方です。

ビジネスモデルは、「価値創造ストーリー」として、ステークホルダーに示すことが重要とされています。
価値創造ストーリーとは、デジタル技術による社会変化が進む中で、未来に向けて変化あるいは強化させていくビジネスモデルの重要な要素、等の方向性です。

デジタル技術を活用する戦略

策定したビジネスモデルを実現するために「デジタル技術を活用する戦略」を策定し、これもステークホルダーに示します。これが2つ目の柱となる考え方。

以降の4つの柱となる考え方は、この戦略を元に、戦略を推進するための2つの方策についての柱となる考え方と、戦略の達成度評価、戦略実行に関するガバナンスシステムの柱となる考え方として構成されています。

  • デジタル技術を活用する戦略(2つ目の柱となる考え方)
    • 戦略を推進するための2つの方策
      • 組織づくり・人材・企業文化の方策(3つ目の柱となる考え方。2-1と示される。)
      • ITシステム・デジタル技術活用環境の方策(4つ目の柱となる考え方。2-2と示される。)
    • 成長と重要な成果指標(5つ目の柱となる考え方)
    • ガバナンスシステム(6つ目の柱となる考え方)

6つの柱となる考え方を順に読んでいても、なかなか頭に入ってこないのですが、このように構造立てて読んでみると、理解しやすいのではないでしょうか。

まず経営ビジョンとビジネスモデルがあり、それを実現する戦略と、戦略を推進するための方策。さらに達成度評価とガバナンスシステムという戦略実行の基盤があるというイメージです。

ステークホルダーに示す

それぞれの柱となる考え方には、「ステークホルダーに示す」という文章が必ず入っています。この点については、デジタルガバナンス・コード 2.0(P4)では、下記のように説明されています。

ステークホルダーに情報を示していくにあたっては、必ずしも、あらゆる情報を社内外に共有するということではなく、企業価値向上に向けて、ステークホルダーの理解あるいはステークホルダーとの協力・協業を得るための対話を行っていく上で、必要な情報を整理し、発信していくことが求められる。(2.以下についても同様)

デジタルガバナンス・コードの実践を通して、企業価値を向上させるためには、ステークホルダーの理解や協力・協業が必要であり、そのためにステークホルダーへの情報発信が必要というわけです。さらに、そのステークホルダーは幅広く捉えた方が良いとしています。(同じくP4)

不確実でかつ変化のスピードが速まっている今日において、企業は、幅広いステークホルダーあるいは社会全体との関係を想定し、対話のきっかけとなる情報については、広く公表を行うことが望まれる

持続的な企業価値の向上

デジタルガバナンス・コードの目的は、持続的な企業価値の向上です。具体的に何に取り組んで企業価値の向上をを持続的に実現していくのか、その内容が企業ごとに異なります。DX認定では、それぞれの企業が考えてステークホルダーに示した内容が、デジタルガバナンス・コードの柱となる考え方に沿っているかを認定するものです。(そのため、柱となる考え方ごとに認定基準が設定されている。)

デジタルガバナンス・コード 2.0の前書きでは、持続的な企業価値の向上のために、下記のようなことが必要とされています。

  1. ITシステムとビジネスを一体的に捉え、新たな価値創造に向けた戦略を描いていくこと
  2. デジタルの力を、効率化・省力化を目指したITによる既存ビジネスの改善にとどまらず、新たな収益につながる既存ビジネスの付加価値向上や新規デジタルビジネスの創出に振り向けること
  3. ビジネスの持続性確保のため、ITシステムについて技術的負債となることを防ぎ、計画的なパフォーマンス向上を図っていくこと
  4. 必要な変革を行うため、IT部門、DX部門、事業部門、経営企画部門など組織横断的に取り組むこと

2点目については主にDXレポート2で、3点目は最初のDXレポートで示されたものです。

1点目の「ITシステムとビジネスを一体的に捉える」ことは、DX時代のITについての価値観として極めて真っ当なものと思います。このことは、以前、当ブログでも整理しました。また、ITコーディネータ・プロセスガイドラインVer.4の前提となる時代認識となっています。

ということで、デジタルガバナンス・コード 2.0について、改めて整理してみました。

経済産業省では、このデジタルガバナンス・コード 2.0をもとに、「中堅・中小企業等向けデジタルガバナンス・コード実践の手引き」も公開しています。次回は、この手引きについても整理してみたいと思います。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。