浜辺陽一郎さんの「会社法はこれでいいのか」を読んでいます。
私事ですが、最近、仕事が忙しくて、なかなかブログのネタ集めをしたり、記事を書く時間が取れないので、前半と後半に分けて書くことにします。
この本は4章構成で、前半2章は新会社法成立の背景と問題点について、後半2章は新会社法の活用についてが書いてあります。
この記事では、前半2章を取り上げることにします。
(ところで、会社法が施行されたのは昨年の5月のことです。「新」会社法と言っても、もう1年以上経過しています。また、行政書士試験において会社法は出題範囲にあります。ただ、行政書士試験で適用されるのは、その年の4月1日に有効な法律であるため、今年の試験から新会社法での出題が始まりました。)
この記事のタイトルを「格差社会を助長する」としたのは、著者がそのことを大いに危惧しているからです。では、なぜ、新会社法が格差社会を助長するのでしょうか。
それは、新会社法が徹底的に効率化を目指して作られているからです。
そして、その効率化は、経営者にとって有利なものなのです。
経営者にとって有利というのは、株主との関係に現れます。
例えば、旧商法では、会社の吸収合併の場合に消滅会社の株主は、新しい会社の株式が対価として与えられていました。
それが、新会社法では「対価の柔軟化・自由化」によって、現金でも親会社の株式等でもよくなりました。つまり、消滅会社の株主に現金を対価として与えてしまえば、新会社からは完全に退場させることが出来ます。
株主総会で4分の3以上の賛成を取れば、株主ごとに権利の内容を変えることが出来ます。これを使えば、4分の1未満の株主の権利をゼロに近い状態にもしてしまえます。
(新会社法において、株式の平等は、種類株式内の平等であって、別の種類の株式であれば、平等でなくて良いのです。例えば、アメリカではGoogleの創業者の2人が、圧倒的に大きな議決権を持つ種類の株式を持っています。株主ごとに権利の内容を変えるとは、そのイメージだと思います。)
また、著者の言葉によれば、
「新会社法は理系の頭で出来ている」のであり、「因数分解的な手法が用いられている」
というのです。
具体例として、旧商法の「転換予約権付株式」と「強制転換条項付株式」の例が挙げられています。
「転換予約権付株式」は株主が転換予約権を行使して、別の種類の株式に転換出来るというもの。「強制転換条項付株式」は会社が一定の条件において強制的に転換するものです。
これが、新会社法ではなくなりました。新会社法には9つの種類株式があり、それを用いて、
旧商法の「転換予約権付株式」 = 取得請求権付株式 × 新しい種類株式の交付
旧商法の「強制転換条項付株式」 = 取得条項付株式 × 新しい種類株式の交付
と、説明されるというのです。
「転換予約権付株式」は、株主の側に取得請求権があり、それを行使するときに、新しい種類株式の交付が行われれば、それ則ち転換である。そういうわけです。
著者はこれを直感的ではないやり方で、会社法に関する深い知識がなければこのような解読は出来ない。専門家を何人も雇えるような大企業には有利だが、そのような能力のない(そして、専門家を雇えない)個人株主には不利であると指摘しています。
(SEという仕事をしている私は、自分では文系と思っていても、どこか理系なのか、新会社法の整理はなかなか分かりやすいように思ってしまうのですが、どんなもんでしょう。)
著者は、こうした新会社法のあり方が(もちろん他の事例もいろいろ挙げて)、大企業の経営者にはますます有利に、一介の個人株主には不利に働くと見て、格差社会に歪みが現れているというのです。
この本を読んでいる私自身(株などやっていない)としては、それが格差社会の歪みといわれてもピンとこないというか、株やってる時点でそこそこカネは持っているな…と思わないでもないのですが、それはこの時代、そんなことはないのかもしれません。私も投資信託くらいはやっていたりしましたから。
さて、この本は新会社法の問題点を指摘するだけで終わりというわけではありません。
後半は、「因数分解」の成果である会社の機関設計の柔軟化をどう活かしていくのか。また、昨今大きく取り上げられているコンプライアンスにも(当然?)テーマを広げています。
それについては、記事を分けて、取り上げます。