SI案件の工事進行基準の原則化について

今回の会計基準の変更では,SI(システム・インテグレーション)案件などで「工事進行基準」による会計処理が事実上義務づけられる。現行の「完成基準」は,システム開発が完了し検収書を受け取ってから売上を計上する。これに対して,工事進行基準はプロジェクトの進ちょく状況に合わせて売上を“分散計上”する。一見すると,単なる会計処理の方法の変更だが,営業担当者やSEの業務にも多大な影響を及ぼすことになる。

背景にあるのは会計基準を国際標準に準拠させていくという大きな流れです。その上で、2007年8月30日に企業会計基準委員会が、SI案件における草案を出したというわけです。2009年度から、原則適用となる運びです。

まず、SI案件に適用されうる会計基準には、

  • 工事完成基準(検収基準)
  • 工事進行基準

の2種類があります。

今は、工事完成基準が一般的に適用されており(各企業が選択していた)、これが2009年度から工事進行基準を適用するのが原則となるわけです。

工事完成基準では、プロジェクトが終わった後に売上やら原価やらを計算して、計上します。SI案件ではプロジェクトの終盤になってくると、どの仕様変更を追加請求するのか、いやこれは仕様変更というよりバグだから追加請求はできないだとか、そういうごちゃごちゃが付き物です。

だから、仕掛かり中はカネのことはさておき、最後にまとめてしまう丼勘定も、ありがちでした。もちろん、一定の規模の会社なら、それなりのことを考えているはずですが、それも管理会計止まりか、四半期なり半期の売上・収益予測に使うといった程度ではないでしょうか。

それが、工事進行基準になると、プロジェクトの進捗状況に合わせて売上や費用を「計上」するということになるのです。「計上」してしまうと、当然、その後の変更は厄介です。

SIerの売上は、会社によっても違うと思いますが、会計年度末にまとめて売上が上がるケースが多いのではないでしょうか。顧客は年度単位でシステム予算を取りますし、必然的にプロジェクトも4月始まりの3月カットオーバーというケースが多いでしょう。
そうなれば、売上が立つのは3月です。年間の売上のかなりの割合が年度末に上がるため、中間決算を見ても、いまひとつ年間の売上・収益が見えなくなります。ついでに言えば、カットオーバー間近はプロジェクトもピーク、場合によってはデスマーチですから、費用もどんどんかかります。これも、中間決算では読みづらいことです。

プロジェクトの中にいると、売上や収益のことは、プロジェクトが終わってみないと分からないと意地を張りがちですが、SIerという会社を外から見ると、そうは問屋が卸さない…という事情もあるわけですね。それが、中途、中途で計上されていくのなら、まさにガラス張りとなります。これは、とても良いことです。

さて、本題に戻ると、工事進行基準が適用されるのは「必ず」というわけでもないようです。「受託ソフト開発における進行基準を義務化、企業会計基準委員会が草案を公開」という記事によれば、工事進行基準が適用されるのは、以下の場合です。

進行基準が適用されるのは、受託ソフト開発のうち、進行途上にあるプロジェクトの進ちょく部分について成果の確実性が認められる場合。成果の確実性を示す ために、収益総額や原価総額、決算日における工事進ちょく度の三つの要素に関して、信頼性をもって見積もることが求められる。上記の要件を満たさない場合 と、工期がごく短いものに関しては、検収時に収益や費用を計上する「工事完成基準(検収基準)」を適用する。対象企業は上場・非上場や規模を問わない。つ まり、顧客の要望に応じて開発する情報システムに関して、基本的に進行基準の適用が義務化されることになる。

いや、確実性が認められないから大変なんじゃないかというツッコミが入りそうな話ですね。成果の確実性が示せないとなると、工事完成基準で良いと言っているように読めます。しかし、といって、いつも工事完成基準に甘んじているようだと、SIerのプロジェクト遂行の実力が問われかねない。ジレンマな世界です。

また、二次請け、三次請けだから関係ないという声もあるようですが、おそらく、それは通用しないでしょう。
契約形態が「請負」か「委任」かによっての違いも、企業会計基準委員会の「工事契約に関する会計基準(案)」において、

受注制作のソフトウェアの制作費については、「研究開発費等に係る会計基準(企業会計審議会 平成10 年3 月)」四1 において、請負工事の会計処理に準じて処理することとされており、このような取引についても、契約の形態(請負契約の形態をとるか、準委任契約の形態をとるか等)を問わず、本会計基準の適用範囲に含めることとした。

という説明がされていることから、やはり工事進行基準で行くということのようです。(委任契約なら別になるでしょうが。)

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。