クラウド時代に必要とされるSIerとは?

興味深い記事なので、私なりに考えてみたいと思います。

クラウドの時代にSIerがどう生き残っていくのかは、Publickeyでもテーマとして追っていますので、その企画に「いいですね、やりましょう!」とふたつ返事で応じ、今回のインタビューが実現しました。

ざっくり言えば、クラウド(SaaS)が普及すると、ふつうのシステムだったらSIerの出番はかなり少なくなる。でも、ふつうじゃないシステムだったら出番があるわけで、SIerはそこをやれるようになろうというところでしょう。

その「ふつうじゃないシステム」とは何かというと、顧客企業(事業会社)が競争優位性を保つためにやっている分野のシステムのこと。金融業界の例が挙がっていますが、たしかに金融業界の新商品というのはITが駆使されていることが多いでしょう。その新商品がどれだけ斬新で、いかに顧客企業とその顧客企業の顧客の双方にメリットがあるかが、まさに顧客企業の競争優位性となる。そういうシステムです。

いままでのシステム開発はバックオフィスのシステムがほとんどでした。特にSIerのやっているシステムはそればかりだったといえるでしょう。ただ、バックオフィスのシステムは売り上げを上げることで利益を出すというよりは、コスト圧縮によって利益を出すという守りの戦略です。バックオフィス系はどこの会社も同じような業務になるので、いわゆるベストプラクティスが成立しやすく、パッケージ化もしやすい。ということは、クラウド化もしやすいということになります。

逆に、売り上げを上げる攻めの戦略のシステムは、それこそ血で血を洗う争いが繰り広げられているフィールドだから、ベストプラクティスは成立しません。一瞬のベストプラクティスは出来ても、すぐに次のベストプラクティスが出てくるといっても良いでしょう。だから、パッケージ化やクラウド化は不可能といえ、常にフルスクラッチで作り続けるしかないということになります。

そもそも、バックオフィス系と違ってこの分野は、すぐにリリースしなければ意味がない分野です。新しいビジネスアイディアを思いついて、それでサービスを始められるのが1年後だとしたら、おそらく3ヶ月後に同じようなサービスを始めたライバル企業に壊滅的な敗北を喫することになります。

この分野を担当するSIer、及びエンジニアに必要とされるのはスピードです。開発するスピードもそうですが、業務や市場環境を理解するスピードもまた求められます。顧客企業と一緒に新商品を開発できるくらいの知識があれば、引く手あまたでしょう。

こうして考えると、市場のパイは小さくなるのかなと思います。二流のエンジニアが50人でやるより、一流のエンジニアが5人でやる世界。そうなると、SI業界のピラミッド構造は崩壊せざるを得ません。そういうことになるのではないでしょうか。

その時、私は、あなたはエンジニアをやっていますか?

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。