意思表示の欠缺、瑕疵のまとめ

民法総則の重要ポイントの1つ、意思表示の欠缼、瑕疵についてまとめておきます。

意思表示の欠缼は、内心的効果意思と表示が不一致のケースで、心裡留保、虚偽表示、錯誤の3種類に分かれます。
一方、意思表示の瑕疵は、内心的効果意思と表示は一致しているものの、その内心的効果意思の形成過程の問題があるもので、詐欺と強迫に分かれます。

それぞれを、見比べてみましょう。

心裡留保は一言で言うと「冗談」です。内心と表示が不一致なことを表意者が認識しています。
この場合、その意思表示は無効となります。但し、相手方が内心と表示が不一致なことを知らず、知ることも出来なかった場合(善意無過失)は、無効を主張できません。
要するに、どうせ冗談なんだから無効だけど、相手が本気で信じている場合は、その気持ちを保護してあげようというわけですね。

虚偽表示は相手方と通謀した上で、第三者をダマそうとしています。だから、内心と表示の不一致を表意者はもちろん、相手方も知っています。例えば、借金の担保になっている物を、売る気もないので売ったことにして、担保の差し押さえを逃れるようなケースです。
このケースでは、表意者も相手方もその気がないのですから、取引は無効です。
しかし、その相手方がさらにワルだったりして、そのカタを何も知らない別の第三者に売ってしまったとします。その別の第三者が善意ならば、虚偽表示の取引の無効を主張できません。
要するに、その彼は巻き込まれただけであり、虚偽表示している連中よりも保護してあげる必要があります。

錯誤は一言で言えば「勘違い」です。この場合も、内心と表示が不一致ですが、表意者はそれに気づいていません。どうせ、ウッカリ者ですから。例えば、みーよの写真を買おうとしたのに、少し似てるからって、ついカメちゃんの写真を買ったような場合です。(もちろん、表意者は、みーよだと思って買っています。)
法律は、ウッカリ者は基本的に保護します。民法には意思自治の原則というのがあって、「意思」を重視します。逆にこの場合は「意思」がないから、取引は無効になります。
但し、裕ちゃんの写真を買おうと思って、萩原舞ちゃんの写真を買うのはウッカリも度が過ぎます。重過失があると言われます。その場合は、無効を主張できません。(みーよとカメちゃんの例がどうなるか、重過失にならないか?は裁判所の判断が必要かも知れません。)

ところで、錯誤には動機の錯誤というものもあります。これはAが欲しいから「Aをください」と言っているのであって、内心と表示が一致しています。しかし、Aが欲しいと思うに至った動機に問題がある場合もあるでしょう。
これは買うつもりがあって、買うことにしたのだから、錯誤による無効は通用しません。
例えば、ハロプロショップに行って、ごっちんのサイン入り写真を買ったとする。どうせ印刷です。しかし、それを何を勘違いしたか直筆だと思って買ったとすると、明らかに動機の錯誤です。この場合、ショップに行って返品する!といっても受け付けてもらえないでしょう。これは、法律的にもOKなのです。
但し、買うときに「直筆だから買う!」と宣言した場合は、話が違います。その場合は、錯誤による無効が通用するのです。

次に意思表示の瑕疵に分類される、詐欺を見ましょう。
要するにダマされたわけですが、誰にダマされたかが問題です。
取引の相手方にダマされた場合は、取り消すことが出来ます。(無効ではないので、取り消さなくてもOK。)
第三者にダマされた場合は、ダマされた事実を相手方が知っていれば、取り消すことが出来ます。
詐欺については、誰に対しても、その詐欺を知っているかどうかが取り消せるかどうかの分かれ目です。

最後に強迫です。これは、どのようなケースでも取り消すことが出来ます。善意の第三者にも対抗できます。
詐欺と比べると強迫の方がコワい思いをしてますから、その分、優しくしてあげようということでしょうかね。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。