小さなSIerの経営戦略論その2~事業ドメインについて

前回はゴーイングコンサーンや経営資源と資源展開について書きました。全社戦略とは自社が持ち有限の経営資源を世の中の環境変化に適合させる形で資源展開するにはどうすれば良いかということでした。

Environmental Forces - influencing competitive strategies and business models
Environmental Forces – influencing competitive strategies and business models / Alex Osterwalder

事業ドメイン

環境変化に適合させる形で資源展開するといっても、それはどのような事業領域(ドメイン)に対してなのでしょうか。また、そのドメインに対して、どのように資源展開するのでしょうか。

経営理念、ミッション

こうしたことを決めるには、2つに要素を踏まえなければなりません。一つは創業者や経営者の思いです。特に創業者は何らかの思いを持って起業し、会社を作ります。その思いはやはり大切なのです。こうした思いは経営理念やミッションとして現れます。思いをもう少し具体的にして、自社の事業を通じて世の中をこのようにしたいといった形で、ビジョンを示すこともあります。また、伝統のある企業では創業者の思いや日々の行動が語り継がれ、企業文化が形成されることもあります。

環境分析

もう一つの要素は環境分析です。企業の命題は環境に適応した事業展開によるゴーイングコンサーンの実現ですから、まずは環境を分析しなければならないのは当然です。
環境分析には3C分析やSWOT分析といった方法があります。3C分析は、Company(自社)、Competitor(競合他社)、Customer(顧客)の3つのCを分析する方法です。SWOT分析は自社の強みと弱みを知り、それを市場の機会と脅威にいかに対応させていくかを検討するものです。
いずれにしても、環境分析とは自社(内部環境)を知ることと、競合他社や顧客の動向、さらには経済情勢や政治動向、人口や自然環境といった外部環境の変化を知ることに要約されます。

ドメインの設定

こうした経営理念やビジョンと環境分析を組み合わせて、自社のドメインを設定します。経営者目線で言えば、自分たちが「やりたいこと」と、社内を含む諸々の環境が「やらせてくれること」の交わるところにドメインがあるというイメージでしょうか。
ドメインは、顧客層、機能、技術の3つの軸で設定することができます。「誰に」、「何を」、「どうやって」と考えると分かりやすいでしょう。
ドメインの設定は、成長戦略の成否に大きな影響を持っています。例えばドメインの設定が狭すぎると自社の成長の機会を狭めることになります。古典的な例ですがアメリカの鉄道会社は自社のドメインを「鉄道」と設定しました。そうすると、車や飛行機の時代になるとついて行けなくなるのです。もし、それを「旅客や荷物の輸送」と定義していれば違っただろうと思います。
逆に、ドメインの設定が広すぎると、何のためにドメインを設定したのか分からなくなります。無理に広いドメイン設定に合わせようとすると、今度は経営資源の無駄遣いということになるわけです。

今回のテーマである小さなSIerで話をすると、業界や業種の知識を武器に「顧客層」に焦点を当てるのか、受託開発や技術者派遣、SaaSといった「機能」にするのか、JavaやRubyといった言語、あるいはネットワークといった「技術」にするのかといったことになるでしょう。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。