民法一部(1)レポート

法制通教の民法一部のレポートを公開します。(2006/9/3)

「現代社会における制限能力者制度」
 現代社会における制限能力者制度について述べる。
 民法において、確定的に有効な法的行為を単独で行える能力を、行為能力という。
 ここで「単独で」という部分が重要である。痴呆や知的障害といった理由で、単独で、そうした行為を行うことが難しい人がいる。
 そのような人が、そうでない人と同じ行為能力を持つとすると、例えば悪徳商法や詐欺者の格好の餌食になってしまう恐れがあり、本人のためにならない。
 そこで、民法において法的に行為能力を制限し、法的行為を行う際に助けを与える人を付けることが出来るのが、制限能力者制度である。
 制限能力者制度では、本人の事理弁識能力の程度によって、3つの類型を準備している。
成年後見、保佐、補助の3つである。ここでは述べないが、未成年者も、年齢を理由に一括して行為能力が制限されている。
 まず、成年後見、保佐、補助について、その違いを述べる。
 成年後見は、事理弁識能力を常に欠く状態にある人が、家庭裁判所の審判をもって、成年被後見人となる制度である。保護機関として、成年後見人が付される。成年被後見人は、行為能力の9条但書を除く、ほとんどが制限される。成年後見人には、成年被後見人の財産を、本人の意思を尊重した上で処分できる、代理権が与えられる。また、日用品の購入を除く成年被後見人が単独でなした行為は、本人及び成年後見人により取り消すことが出来る。
 保佐は、事理弁識能力が著しく不十分である人が、家庭裁判所の審判をもって、被保佐人となる制度である。保護機関として、保佐人が付される。被保佐人の行為能力は、13条1項で挙げられている項目が制限される。また、家庭裁判所は、行為能力を制限する項目を、創設的に追加することが出来る。成年後見との違いは、今、述べたような行為能力の制限対象が狭いことと、そもそも保佐人に代理権が与えられないことである。被保佐人の事理弁識能力は、著しく不十分とはいえ、欠けているわけではない。よって、保佐人による代理ではなく、被保佐人の行為について、保佐人が同意する権利を持つに留まる。但し、被保佐人の請求及び同意を前提に、家庭裁判所が特定の行為に関する代理権を与えることもある。取消権については、制限能力者制度の全般で、本人及び保護機関に与えら得るものであり、保佐においても同様である。
 補助は、事理弁識能力が不十分な程度である人が、家庭裁判所の審判をもって、非補助人となる制度である。保護機関として、補助人が付される。被補助人の行為能力は制限されない。但し、補助人には家庭裁判所によって、特定の事項に関する同意権及び代理権が与えられるのであり、その事項に関してのみ、被補助人の行為能力が制限されることになる。取消権については、やはり同様に与えられる。
 このように、制限能力者制度の類型は、補助→保佐→成年後見の順に、行為能力の制限が強くなり、保護機関に与えられる権限が強大になっていく。一般に事理弁識能力に問題があるといっても、人それぞれに、その程度は異なるのであるから、当然に必要である。また、痴呆の場合は、時間の進行によって、痴呆の度合いも強まることがあるから、最初は被補助人であった人が、後に被保佐人、成年被後見人になるということもある。
 ところで、制限能力者制度は、何らかの理由により事理弁識能力が不足する人にとっての制度であるが、制限能力者による法的行為の相手方となった人のことも考えなければならない。制限能力者による法的行為は、本人または保護機関によって取り消すことが出来るし、そもそも法的行為自体に同意が必要なケースもある。つまり、相手方にとっては、いつまでも、その行為が確定されないことになる。
 そこで、民法では、相手方が1ヶ月以上の期間を設けて、その行為を取り消すのか否か、催告する権利を与えている。その期間を過ぎても回答がない場合は、20条により、ある行為は取り消され、ある行為は取り消されない。但し、制限能力者が、行為能力が制限されていないように詐術を用いた場合は、取消権が与えられない。
 制限能力者制度は、現代社会においては特に、老後の財産管理のために活用されるようになってきている。老後に事理弁識能力が不足していく理由として、痴呆の進行がある。
 痴呆の進んだ人は、ケースにもよるが、単独では人間的な生活が出来なくなる。その際に必要なのは、ヘルパーを雇うことであり、自宅を引き払って老人ホームに入居することである。その際に、どうしても必要になるのは、何らかに財産を処分することである。特に自宅を売却するようなケースでは、当然に、高度な事理弁識能力が要求される。
 制限能力者制度が活用されていないと、親族といえども勝手には自宅の売却など出来ないのであり、最悪の場合、何の手も打てないということもあり得る。そこで、例えば、その人が成年被後見人となり、成年後見人が付けられれば、手が打てるようになる。
 制限能力者制度は、老後の財産管理という側面においては、人生の最後まで人間らしい生活を送るための支援をする制度とも言えるのである。

<参考文献>
中山二基子「家族のための老いじたくと財産管理 親子の財産トラブルと成年後見制度」講談社+α新書、2002年
(2,190字)

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。