コンビニの大衆薬販売参入をPLCにあてはめてみる

6月より改正薬事法が施行され、「登録販売者」という資格で大半の大衆薬が販売できるようになります。

それを受けて、コンビニなどの大手小売りが一斉に参入しようとしています。セブン&アイHDは調剤薬局のアインファーマシーズに出資、ローソンもクオールと提携するなど、他業種間の提携が盛ん。ファミリーマートは自前で大衆薬販売に乗り出す方針です。

圧倒的な力を持つコンビニの攻撃を受ける、マツモトキヨシなどのドラッグストアは、調剤事業に乗り出したり、PB商品を開発するなど新たな収益源を模索しています。「薬」をめぐる各種小売り業の垣根は、どんどん低くなりそうです。

一方、改正薬事法では大衆薬の種類が3分類されることになります。副作用の危険性によって、第1類から第3類に分類され、登録販売者が扱えるのは第2類と第3類。
第1類に分類されると薬剤師しか販売できず、また、売り場でも原則カウンターの背後に置いて、消費者が直接触れないようにしなければなりません。具体的には、胃腸薬の「ガスター10」や発毛剤の「リアップ」がそれに当たります。

ガスター10は、それまで医師の処方箋がなければ使えなかった成分が入っているということで、効き目が強いことを感じさせるCMをやっていました。第1類に分類された商品は、売れ行きの鈍化が危惧されますが、上手くアピールできれば差別化となって競争力を持つ可能性があります。

また、ネット通販で扱えるのは第3類のみ。ビタミン剤やうがい薬程度になってしまい、第2類となる風邪薬「パブロン」や漢方薬「葛根湯」は扱えなくなります。最近、楽天で買い物をすると、「薬がネットで買えなくなる!」というアピールと署名のページに飛ばされますが、この改正薬事法が原因でした。

マーケティング的に見ると、こんなことがいえます。

  • 改正薬事法のような、ビジネスの機会となる事柄を「環境機会」といいます。環境機会のうち、実際に企業が参入できそうなものを「企業機会」といいますが、コンビニ各社は改正薬事法を企業機会と捉えたということです。
  • コンビニの大衆薬販売参入をPLC(製品ライフサイクル)に当てはめてみると、導入期に当たります(ちょっと強引ですが)。導入期のプロモーション戦略の基本は、知ってもらうこと。まだ、コンビニで薬が買えることを知っている人は少ないので、それを知ってもらわなければ薬を買うためにコンビニに来てくれません。新聞でも連日載っているので、パブリシティの効果が期待されます。
  • 薬は必要ないのに安いから買うというようなものではなく、価格弾力性が低い商品といえます。多品種小口のためコスト高ではありますが、コンビニチェーンの大量仕入れによる「規模の経済」や、既に整備されている配送網が使えるといった「範囲の経済」があり、コストをある程度は削減できる可能性があります。

そう考えると、薬はコンビニにとっておいしい商品になるかもしれませんね。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。