ファミスタ最新版のコンピュータ対戦は人工知能といえるか

ファミスタ、知ってますか?
バンダイナムコが出している家庭用ゲーム機用の野球ゲームです。最初に発売されたのが「プロ野球ファミリースタジアム」でファミコン向けに1986年に出ました。その後も対応ゲーム機を変えながら、1997年までは毎年発売され、隔年になっても2011年まで出た、超メジャー野球ゲームといえるでしょう。

私は小学生くらいの頃にファミスタにはまり、日々コンピュータとも対戦する、友達とも対戦するということをして、私の野球への興味をどんどんかき立てたのでした。
ファミコン向けに最後に出たのが「ファミスタ’94」で、それが最後に熱中したファミスタだったでしょうか。

最近、なんとなくファミスタがやりたくなって、調べてみたら去年最新版の「ファミスタリターンズ」が出たというのが分かって、3DS本体も合わせて購入して、手始めにコンピュータ対戦してみたのです。
すると、これがなかなか強い。私が久しぶりすぎて下手になっただけなのもありますが、以前ならコンピュータになら絶対勝てていたのに、これがコロッと負けたりします。

緩急にやられるコンピュータ打者

それより驚いたのが、コンピュータの打者に緩急を使った投球をすると、空振りしたりすることです。
以前のコンピュータ対戦では、緩急を使ってもほとんど意味がなく、速球には空振りするが遅い球は必ず打たれるといった単純なものでした。
投球のコースにしても、内角に甘い球が行けば絶対打たれていたのに、ファミスタリターンズでは、外角に速球を決めた後なら、内角の甘いところに緩い球が行くとコンピュータ打者が見逃ししたり、早めに手を出して凡打になったりする。

これは私のとって軽い衝撃でした。
ファミコン時代のコンピュータ打者は、1球毎の打撃アルゴリズムで動いていて、打席の中での配球は関係なく、目前の1球だけを見て、打ちに来ていたのだと思います。だから、絶対打てないコースなら10球続けて投げても、やっぱり打てません。
一方、ファミスタリターンズでは、その打席か、少なくとも前の1球のことは考慮されたアルゴリズムになっているようです。その結果、緩急にやられたるようになったのでしょう。さっき打てなかったのと同じコースに投げても、打たれたり打たれなかったりする。

こうした動きを見ていると、コンピュータ打者になんだか人間くささを感じてしまいます。人間を相手に対戦プレイしている気分です。
もしや人工知能?と思えてきます。バンダイナムコはファミスタに人工知能搭載という宣伝文句は使っていませんが、メーカーによってもそういうマーケティングをしてくるところもあるかもしれません。

人工知能のレベル

東京大学准教授の松尾豊さんは「人工知能は人間を超えるか」という書籍で、人工知能を4つのレベルに分類しています。(各レベルの説明は同書をベースに、少し表現を変えている)

<レベル1> 単純な制御プログラムを人工知能と称している

実際には制御プログラムが入っているだけなのだが、マーケティング的に人工知能を謳っている。実際には、人工知能とはいえない。

<レベル2> 古典的な人工知能

推論・探索や、知識ベースを入れるなど、古典的な人工知能が活用されている。
将棋のプログラムや、質問に対する回答などを行う。

<レベル3> 機械学習を取り入れた人工知能

入力から出力に至るプロセスがデータによって学習されている。
機械学習を用いているのが一般的で、現在の人工知能といえば、基本的にはこのレベル。
レベル2にあった人工知能も、機械学習を取り入れてレベル3になっているものが多い。
(IBMのWatsonはレベル2からレベル3に移ってきていると思われる。)

機械学習を行う際のデータを示す特徴量(人工知能による分析対象をどのようにデータ化すれば、効率の良い学習が行えるか)は、人間が考えて与える必要がある。

<レベル4> ディープラーニングを取り入れた人工知能

機械学習を行う際のデータを示す特徴量そのものを学習する、ディープラーニングが取り入れられた人工知能。
現在、様々な投資が活発に行われており、最もホットな領域。

ファミスタリターンズのレベルは?

このレベル分類によれば、ファミスタリターンズはレベル1か2のあたりにあるのではないでしょうか。
よって、現在の技術でいえば、人工知能とは言い辛いレベルです。(バンダイナムコも人工知能とは一言も言っていない。)

世の中にはレベル1程度で人工知能を謳っていることも多く、一方で人工知能と言えば何でもレベル4だと思っている人もいるということには、注意が必要です。

人工知能の現状と期待

いま実用化されている人工知能はだいたいレベル3の機械学習くらいにあり、有効に活用するためには相当に人間の出番があるといえます。
もちろん、レベル2と比べると、機械学習が入っているので、入力から出力に至るすべてのプロセスを事細かに教える必要はなくなっています。しかし、玉石混淆なデータをとにかく大量に入れてさえおけば、あとは人工知能が良きに計らってくれるという状態には達していません。

しかし、同書で松尾准教授が述べているように、ディープラーニングが人工知能の現状を一変させる可能性はあります。そのために世界中で巨大な研究投資が行われており、一部は実用化も始まっています。

私自身はあくまで実用して、経営に活用するところが立ち位置です。なので、「今できることは何か」をあくまでも重要にしながら、技術の進展にも注視していきたいと考えています。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。