DXをはじめるための第一歩「DX推進指標」とは何か

DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が高まる中、多くの企業がその推進に苦心しています。経済産業省ではさまざまなDX推進施策を実施していますが、その第一歩として位置づけられているのが「DX推進指標」です。本記事では、DX推進指標の概要と効果的な活用方法について解説します。

DX推進指標とは

DX推進指標は、企業のDX推進状況を可視化し、改善につなげるためのツールです。経済産業省が公表したこの指標は、以下の特徴があります。

  • 経営者や関係者が自社のDX取り組み状況を自己評価
  • その自己評価に基づき、現状と目指すべき姿とのギャップを認識
  • その認識に基づき、必要なアクションを明確化するための議論を行う
  • IPAに自社の評価結果を提出することで、ベンチマークレポートが提供される

DX推進指標の構成

DX推進指標は主に2つの領域で構成されています。

  • DX推進のための経営のあり方、仕組み
  • DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築
出典:IPA「DX推進指標のご案内」

各領域には、キークエスチョンとサブクエスチョンが設定されており、キークエスチョンは経営者自身が回答するもの、サブクエスチョンは経営者が幅広い関係者で議論しながら回答するものとされています。
回答は、定性指標については6段階の成熟度で評価し、定量指標は各企業によって定めた数値で行います。回答にはエビデンスを付けることが推奨されています。

DX推進指標の活用方法

DX推進指標を効果的に活用するために、下記のステップで検討を進めると良いでしょう。

1. 関係者での議論と回答

キークエスチョンは、経営者自身が回答することが望ましいとされています。

サブクエスチョンは、経営者が、経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門など、幅広い関係者で議論して回答します。それぞれのサブクエスチョンは、キークエスチョンの回答を具体化し実現するものであるため、サブクエスチョンについての議論の結果、経営者が理解を改め、キークエスチョンの回答を訂正するということもあって良いでしょう。

2. 現状分析と課題の特定

DX推進指標は回答すること自体が目的ではなく、回答やその回答を行うための議論の中で、自社の現在の成熟度レベルを把握し、あるべき姿とのギャップを認識することが本来の目的です。

定性指標については、現在の成熟度の認識と、次に目指すべきステップとして次の成熟度を設定することになります。定量指標については、具体的な経営課題に基づいて設定されるものですが、DXによる競争力強化の達成度合いと、DXの取り組み状況について指標化すると良いとされているため、その視点での現状分析や課題特定を行うと良いでしょう。

3. アクションプランの策定

次なる成熟度目標や、特定された課題を解決するための具体的なアクションを計画します。たとえば、3年後の目標設定とロードマップの策定、進捗管理の仕組みづくりなどを行うと良いででしょう。

4. 定期的な評価と改善

DX推進指標は一度行って終わりというものではありません。年1回程度の再評価を実施し、継続的な改善を図る必要がありますし、課題の解決を目的とするものについては、より短いサイクルでの評価・改善が必要でしょう。

DX推進指標活用のポイント

DX推進指標は、単なる点数付けではなく、具体的なアクションにつなげることが重要です。また、経営指標達成の手段として捉え、指標自体が目的化しないよう注意しなければなりません。

DX推進においては、単なる技術導入だけでなく、DXの本来の目的であるビジネスモデルや企業文化の変革につながるものとする必要があります。また、部門横断的な取り組みと、全社的な視点での最適化を意識することも重要です。

DXは、経営者のリーダーシップのもと、全社一丸となって取り組むことで、競争力の強化と持続的な成長を実現するべきものです。その第一歩として、自社のDX推進状況を(まったく未着手という状態を含めて)客観的に評価し、改善につなげるための有効なツールとして、DX推進指標を活用すると良いでしょう。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。