SEに必要な「自分の仕事が役立っている」を感じる力

あなたにとって仕事のやりがいとは何だろうか?
それは、お金だとかチャレンジすることだとか自己実現だとか、回答のバリエーションはいろいろあるだろう。

転職活動中の私は、面接でこの質問をされた。
「自分の仕事が、何かの役に立っていると実感すること」
私は、そう答えた。

仕事である以上、生活を維持するためのお金が大切なのは言うまでもない。そして、お金はたくさんもらえた方が良い。お金がすべてではないが、世の中にある価値尺度の中で最も普遍的なのはお金であり、その大小は、世の中から見た仕事の価値とイコールと言える部分があることは否定できない。

私は自分の仕事が何かの役に立つことも重視している。何の役にも立たない仕事は徒労であり、やる意味はない。時間の無駄である。もし、それでお金がたくさんもらえたとしても・・・。

いや、「お金がたくさんもらえたとしても」という仮定は、矛盾があるかもしれない。何の役にも立っていない仕事に、誰がお金を払うというのだろう。お金がもらえるということは、役に立ったと思った人がどこかにいるに違いないのだ。

SEという仕事は、自分の仕事が役立っていると実感できることが少ない仕事ではないかと思っている。

転職活動をして、いろいろな会社を見るのだが、例えば楽天やYahoo!といったBtoCの会社だと、自分の仕事が役立っていると実感しやすいかもしれないと思う。こうした会社のお客様は消費者だ。消費者はお金を払う最終決定権を持っている。そして、自らも消費者の一員だから、自分自身にとって役立つものは、他の人にも役立つだろうと、容易に想像出来る。

だが、SEの仕事場の多くはBtoBの会社である。転職エージェントから紹介される会社も大多数がそうであるし、求人に応募する先もやはりBtoBだし、そもそも私が10年のSE人生のすべてをBtoBの会社で過ごしているのだ。

BtoBの会社で作るシステムは、そのお客様である企業もまたBtoBビジネスをやっていることが多い。最終的にお金を払うのは消費者だが、そのお金は乗数効果が働いて何倍ものBtoB市場を作る。SIerもそのお客様である企業もBtoB市場に生息しているのだ。

BtoB市場はBtoC市場に比べて圧倒的に複雑だ。いろいろな方法でお金が動いているし、いろいろな会社や制度が絡み合って成立している。だから、そこで必要になるシステムというのも、直感的に何かの役に立つなぁと思えないものが多かったりする。

例えば私はSI業界の工事進行基準対応に関するプロジェクトを担当しているが、それに対応したから何だ?と思うわけだ。IFRSだってそうだ。会計基準の変更があると企業は対応せざるを得ない。なぜ会計基準が変更されるかというと、会計の透明性・公正性の向上といった理由がある。市場がそれを求めているのだろう。そうしたことを積み重ねて考えれば、適正な市場競争が実現され、最終的には社会や消費者の利益になるのだと思う。

突き詰めて考えれば、どんなシステムだってそうなのだ。BtoBだろうがBtoCだろうが、まずはお客様企業の利益になるためにシステムを作る。その企業が儲かったところで、世の中のためになるのだろうか。

そのシステムがGoogleのように、まずはGoogleの利益になるけれども、合わせて世の中の役に立っていると思えるなら良い。しかし、どこにでもあるような会社のどこにでもあるようなシステムだとしたら、そのシステムが世の中の役に立つのか?というのは、直感的には分からない。

ある書店が社内の勤怠管理システムを作るとする。本を買うにはAmazonがあれば良いのだから、そもそもその書店って企業として必要なの?しかも、その必要かどうかも分からない企業の勤怠管理だなんて・・・。極端なことを言えば、そういう考えだって頭に浮かぶ。

もちろん、それで「役に立たない」と結論づけるのは思考停止である。もっと考えないといけない。まず書店が世の中にAmazonしかない状況は考えたくない。健全な競争相手が必要なのであり、健全な経営を実現するには勤怠管理も必要だろう。

つまり、仕事のやりがいを「自分の仕事が何かの役に立つ」ということに求めるSEは、世の中の構造や動きを理解して、自分が担当しているシステムが最終的に何の役に立つのかということを思い巡らす力が必要なのだ。その力が、自分が作るシステムと、自分の人生の質を高めるのだと思う。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。