ソフトウェアの知的財産権を総まとめ

特許や商標など知的財産権についていくつか記事を書いてきました。私の本業であるソフトウェアと知的財産権について横串を通してみたいと思います。

ソフトウェアと特許

ソフトウェアで特許は取れるでしょうか。答えは、取れます。特許の対象になるのは、物、方法、物を生産する方法の3つですが、ソフトウェア(プログラム)は物に入るとされています。もちろん、特許は著作権とは違いますから作ったソフトウェアがすべて特許を取れるというわけではありません。他の物と同様、技術的思想で、産業上利用でき、新規性と進歩性がある発明でなければなりません。また、物の実施にはネットワークを通じた配布が含まれることから、特許権のあるソフトウェアをネットワークを通じて配布するには実施権が必要になります。

ソフトウェアの開発は多くの場合、会社の業務として行われます。そのため、システムエンジニアやプログラマが会社での仕事の一環として発明を行った場合、職務発明の範囲に入ります。一般的なシステムインテグレータでは発明を念頭に置いた業務を行うことは少ないため、雇用契約や勤務規則などで発明についての項目が置かれていることはあまりないかもしれません。その場合、行われた発明について会社は通常使用権を有するものとされています。通常使用権とは、その発明されたソフトウェアを使ってビジネスをやって良いということです。ただし、専用使用権ではありませんので、発明を行った従業員が他の会社等に使用許諾をすることを妨げられません。
一方、雇用契約などに特許を受ける権利(予約承継)もしくは専用使用権を会社が持つようにすると規定した場合、特許法において、会社から発明を行った従業員に対して相当の対価の支払いを要すると定められています。
職務発明は、従業員が会社を辞めた後に会社でやっていた業務に関しての発明を特許出願した場合を含みますので、注意が必要です。

ところで、開発したソフトウェアをその企業のWebサイトやイベントなどで紹介する場合があります。そうするとそのソフトウェアに関する発明は公知のものとなるので、原則として新規性を喪失したことになり、特許取得の条件を果たせなくなってしまいます。そうした場合は、6ヶ月以内に新規性喪失の例外規定を受けたい旨の書面を特許出願と同時に提出し、さらに出願から30日以内に事実証明書面を提出すれば良いことになっています。これも知っておいて損はないでしょう。

ソフトウェアと意匠

意匠権は物の形やデザインを保護する権利です。工業上利用することができ、新規性を有し、創作が容易でないことが求められます。工業上利用できる意匠とは、それが物品であり、その物品の形態であり、視覚で感じ取るものであり、美感を起こさせるものとされています。

さて、ソフトウェアで意匠権は取れるのでしょうか。これも取れます。意匠法では機器の機能と密接な関係のある画面デザインについて、機器に表された状態で物品を構成する要素して意匠権の対象としています。つまり、例えばデジタルカメラに組み込みのソフトウェアについて、デジタルカメラの機能である撮影や画像の閲覧を行うためのGUIの画面デザインが保護の対象となるわけです。また、ゲーム機においては、そのゲーム機の設定を行っている画面は保護の対象になりますが、ゲームをしている状態の画面は保護の対象にはならないとされています。

意匠権は本来的にはその物品そのものの意匠を保護するもので、その定義によればデジタルカメラはデジタルカメラそのものの意匠は保護されても、その設定画面のデザインなどは保護の対象にはなりません。平成10年の意匠法改正により部分意匠が認められるようになり、さらに平成18年の改正で画面デザインが保護の対象になりました。時代の流れに追随しているのですね。

ところで、最近はソフトウェアのプラットフォームを一元化して、生産性の向上を図ることが多くなっています。例えばDVDプレーヤーとカーナビの操作画面を同じプラットフォームの上で作った場合、当然画面デザインも同じようなものになりますが、まとめて意匠権が取れるのでしょうか。これは別々に意匠出願をしなければなりません。「機器の機能と密接な関係のある画面デザイン」というのが要件ですので、機器の機能が違えば、別々となるわけです。

職務意匠については、特許法の職務発明の規定が意匠法で準用されていますので、同じと考えて差し支えありません。

ソフトウェアと著作権

ソフトウェアの知的財産権について最も関係深いのは著作権だと思います。著作権は新規性などが不要で、出願なしに創作したと同時に権利が発生します。それに、著作権で受けられる保護だけで十分なケースも多いのです。

まず著作権が保護する著作物について定義を見ておくと、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」となっています。ソフトウェア(コンピュータプログラム)は、「作成者独自の学術的思想の創作的表現」として、学術の範囲の著作物性を認められています。また、著作権法10条1項にある例示列挙においても、9号に「プログラムの著作物」が挙がっています。なお、著作権法10条3項において、プログラムの著作物の保護は、プログラム言語、プロトコルやインタフェース、アルゴリズムには及ばないと規定されています。

職務著作については、「法人等の業務に従事するものが、法人等の発意に基づいて、職務上作成する著作物であり、法人等が自己の著作の名義の下に公表し、著作物の作成時の契約等において個人の著作とする別段の定めがない」場合は、その著作物の著作権は法人等に帰属するとなっています。また、プログラムの著作物については「法人等が自己の著作の名義の下に公表し」の部分が適用されないことになっています。故に、一般的に会社の業務として開発したプログラムの著作権は会社に帰属するわけです。

「法人等」について、著作権は広く見ています。例えばコミュニティで開発したプログラムについて、そのコミュニティは株式会社などの法人格を得ていないわけですが、代表者や管理人といった人がいれば、そのコミュニティに著作権が帰属します。(一方、特許や意匠などの産業財産権では、法人格を求めます。)

さて、一般的にシステムインテグレータは顧客企業のためにソフトウェアを開発します。その場合の著作権はどうでしょう。まず、原始的には著作権はシステムインテグレータに帰属します。現実的には、顧客企業との契約において著作権は顧客企業に帰属するとされている場合が多いのではないでしょうか。しかし、システムインテグレータはせっかく開発したソフトウェアを他のビジネスにも転用したいと思うこともあり、その場合は著作権はシステムインテグレータが持ち、顧客企業と利用許諾契約をするというケースも考えられます。また、あくまで顧客企業が著作権を持つけれども、システムインテグレータ側に複製権や翻案権を認めるというケースもあるでしょう。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。