CRM基礎講座の第1回として、CRMを知るには欠かせない概念の一つであるLTVについて説明します。
LTVはLife Time Valueの略で日本語では顧客生涯価値といいます。一言で言えば、一人の顧客が一定の期間に自社の商品やサービスを買ってくれた金額の集計のことです。顧客貢献度を見るものなので損益で計算します。精度は下がりますが、売上で計算しても問題ないでしょう。
LTVは1回の購入金額×年間の来店頻度×来店期間(年数)のように計算します。
LTVは顧客「生涯」価値ですが、来店期間の年数は生涯である必要はありません。そもそも顧客の生涯を追いかけることは出来ませんし、企業の戦略としてそこまで長期間の金額を出しても意味がありません。計算に使う期間は、商品やサービスの種類によります。例えばスーパーマーケットだとすると一人の顧客が一生通ってくれることは非常に稀です。仮に1年間で10万円(例えば1回の購入金額2000円×年間の来店数50回)買ってくれるからといって、生涯70年で700万円になるわけではありません。せいぜい5年で50万円とか、 10年で100万円と見ます。
あくまで自社の商品やサービスにお金を払ってくれた合計なので、特定の商品の売上だけを追いかけるのではありません。特定の商品を買ってくれた金額、そのオプションを買ってくれた金額、アフターサービスに払ってくれた金額など、自社にとって売上となる一切の金額を合計します。(小売業だと考えにくいかもしれません。下記のiPhoneの例のようにメーカーだとイメージ出来るのではないでしょうか。)
iPhoneのことを考えてみましょう。まずiPhoneを5万円で買ってくれたとします。Appleにとって5万円の売上です。ケースなどのオプションを1万円買ってくれれば、一定のマージンがAppleの懐に入るらしいです。仮に10%として1000円。さらにiTunes Storeでアプリを2万円買ってくれたらその30%はAppleの取り分なので6000円。これで57000円。iPhoneは2年に1回モデルチェンジするとして、それを毎回買ってくれる優良顧客ならば、とりあえず3モデル分(6年)の集計として約17万円のLTVということになります。(ここでは損益ではなく売上で計算しています。この計算はかなり適当なので注意。)
重要なのは、同じ顧客に対する売上をバラバラで考えないことです。特定の一人の顧客の消費行動を一定の期間で継続して見て、計算するのです。
LTVはどうすれば向上させることが出来るのでしょうか。先ほど挙げたLTVの計算式を見返すと、考えられるのは3つの方法です。
- 1回の購入金額を増やす
- 来店頻度を増やす
- 来店期間を伸ばす
最低限必要なことは、顧客との関係を切らないことです。米国の巨大スーパーマーケットチェーンであるウォルマートのLTVは120万円だそうです。ウォルマートはどんな商品でも返品可能というサービスをしています。既に使い始めた商品でも返品させてくれるという噂です。これは過剰サービスなのでしょうか?
ウォルマートはそうは考えていません。例えば返品によって3000円の損が出たとしても、それは120万円というLTVを得るための投資と考えているのです。顧客との関係が切れると、来店期間を伸ばすどころか一気に短くなってしまいます。ウォルマートが返品を断らないのは、返品を断ることでその顧客が二度と来店しなくなる損失を考えてのことです。
1回の購入金額を増やす方策は、クロスセリングとアップセリングがあります。クロスセリングはもう一つ何か買ってもらうこと。私は学生時代にリンガーハットという長崎ちゃんぽんのチェーン店でバイトをしていたことがあります。ちゃんぽんを注文したお客さんに餃子やおにぎりを勧める。これがクロスセリングの提案です。アップセリングは、ちゃんぽんではなく海鮮ちゃんぽんという季節限定の高級素材が乗った高価なちゃんぽんを勧めることです。
ちゃんぽんの例は一般的なクロスセリングとアップセリングの説明ですが、CRMを絡めてみると、その顧客の好みやライフイベントなどを知っているからこそ出来るクロスセリングやアップセリングの提案があります。例えばドコモなどの携帯電話会社は顧客の通話履歴、データ通信履歴を知っています。ある顧客が特定の相手との通話が多いと分かれば、電話番号を指定することで通話料金が割引になるサービスを提案するといったことが考えられます。割引することで売上が減りそうですが、割引サービスの基本料金が入り、さらに通話時間が伸びることで割引前よりも売上が増えることが期待出来るわけです。
来店頻度を増やす方策の代表例はポイントカードシステムです。ヨドバシカメラやビックカメラのポイントは、何かを買ってポイントが付与された時点では使えません。せっかく付与されたポイントを使おうと思ったら、別の機会にもう一度来店する必要があるわけです。他にも、ダイレクトメールや定期的なイベントによって来店頻度を増やす施策があります。
こうした取り組みは多くの会社が様々な方法でやっているので、一度こうしたLTVの視点で自分がどう扱われているのか、考えてみると良いのではないでしょうか。