情シスはクラウド事業者と競争すべし

「情シス」こと企業の情報システム部門は、コストセンターとして長らくその生産性や企業への貢献度に疑問符がつけられてきました。かかるコストの割にメリットが見えない。開発プロジェクトは失敗してばかりいる。ベンダーの言いなりじゃないのか。
情シスがそのように見られる原因は、企業の情報システム方針が明確になっていないこと、業績にコミットしていないことがあります。

情シスが「当社の情報システムはこういう方針で整備し、これだけのコストをかけ、これだけの利益につなげる」と宣言し、実行できれば、こうした問題の大半は解決できます。

それが出来ない理由もあります。経営者がITに対する理解がない。ITに責任を持つ取締役(CIO)がいない。CIOがいても企業における上がりのポストになってしまっている。情シス内部としても、情シスは企業のヒエラルキーにおいて傍流であり発言力がない。もともと情シスになるつもりでない人が少しPCに詳しいというだけで担当者になっている。日々の運用に忙殺されてしまっているなど。(問題は様々ですが、とりあえずこのエントリーではそれは置いておきます。)

CIO Onlineの「探求!ビジネス成長とIT革新|シリーズ1:ビジネス成果に貢献する戦略的IT革新(4)」という記事に、下記のような指摘があります。

IT組織の本来の目的は、ITによるビジネスへの貢献です。ITを提供することは手段であり目的ではないのです。IT組織の付加価値を高め、ビジネスによりよい貢献をするには、IT組織の成熟度を向上させる必要があるでしょう。そのためには以下の視点が重要であると考えます。
●サービス提供型の組織
●サービス品質の提供
●継続的なコスト削減

これは情シスを企業(及びビジネス部門)にとってのベンダーの1つにするということを意味します。

いま、大量のIT設備を保有し、その上で動作する開発済のサービス(クラウドサービス)を顧客企業に提供する、クラウド事業者が増えています。クラウドサービスを使うメリットは、使いたいと思ったらすぐに導入できること。不要と思ったらすぐにやめられること。コストは使った分だけ毎月払えば良いことなどです。

情シスが提供するITサービスも、クラウド事業者が提供するクラウドサービスと同列に扱えるようにするというわけです。企業の経営者やビジネス部門の責任者が、かかるコストと期待できるメリットについて比較衡量して、採用するサービスを決めます。そうすれば、情シスは自ずから生産性を上げ、コストとメリットを明確にせざるを得ません。

そうは上手くいかないという意見もあるでしょう。
クラウドサービスだってカスタマイズが必要になれば時間もお金もかかるじゃないか。そもそもビジネス部門の独自要件は独自システムの開発でしか実現できないし、それが出来る人材は情シスにしかいないじゃないか。

「○○情報システム」(○○には親会社名が入る)といったSIer(いわゆる情シス子会社)がありますが、企業の情シスを分離したものです。一時期そうした子会社化がブームになりました。その目的はコストセンターからプロフィットセンターに変え、独立系SIerと競争させるということだったので、その焼き直しでしかないという意見も出てくるでしょう。

良い兆しもあります。
クラウドというITサービス提供の方法が技術的に可能になりました。クラウドでは開発コストは事前負担になるので、そのコストの回収や利益の面では精緻な計画が必要となります。情シス子会社がブームになった当時はSI案件の発注という形式であり、どんぶり勘定も可能でした。これは大きな違いです。
ビジネス部門にもベストプラクティスの考え方が入ってきました。その企業独自のやり方にこだわるのではなく、ビジネスの競争力に直結しない部分は共通化されたベストプラクティスを導入したほうが良いと考えが広がってきています。クラウド導入にとっては好機です。

ドラッカーの「マネジメント」では、下記のような例があがっています。

ある大企業では、事業部は本社のマーケティング・スタッフを利用できるが、利用することを強制はされていない。社外コンサルタントを使うことも、事業部内にスタッフを持つことも許されている。本社に対しては、本社のスタッフを使ったときだけコストを負担すればよい。

公的機関(行政サービスだけではなく企業の間接部門を含む)の成果について書かれているものですが、情シスについても十分適用できることです。
クラウド技術の進展によって、適用のしやすさはさらに増したと言えるでしょう。

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この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。